Powder Snow
| 季節は秋色から冬色に移り変わった。 街にはほのかにクリスマス色が見え始めている。 「雪月(ゆき)ごめん。俺好きな子ができたんだ」 彼とは半年付き合っていた。 今日のデートは何だか彼の様子が変だった。それは別れを告げなければならなかったからなんだ。 「うん。わかった」 その言葉を素直に受け入れる。 「本当にごめんな」 ふられているのは私だというのに、彼の方が辛そうな顔をしていた。 「いいよ気にしないで。その子と幸せになってね」 笑って彼にそう言った。 ほのかにクリスマス色に彩られ始めた街を一人で歩く。 またクリスマス前にふられちゃったな。もうこれで三回目か。まさかこれが私の運命じゃ……。 もし……泣きついたら別れないですんだのかな。いつもすぐに手放しちゃうからいけないのかな。 でも……泣きすがるなんてみっともないことできない。 私はこの日泣くことをしなかった。 一人きりになっても。 「雪月、クリスマスにカラオケ行こう」 朝、教室にはいると友達の一人が話しかける。 「こらこら、雪月は彼氏とデートがあるって」 「そっかぁ」 それをもう一人の友達が止める。私の周りにはすぐに数人の友達が集まった。 「いいなぁ、彼氏いる奴は」 「あんた彼氏ほしいの?」 「いや、俺は彼女がほしい」 「私カラオケ行くよ」 私の一言でみんなの会話はすっと止まった。 「何言ってんの?彼氏とデートは?」 すぐに友達の一人が聞いてくる。 「昨日ふられちゃったからさ。他に好きな子ができたって」 「……それでまたあっさりひいてきたの?」 「うん。それでアイツが幸せになれるならかまわないから」 あれ?なんかいつもと違うな。辛そうに見える。 ふられたばかりだからなのかな。でもいつも平気そうなのに。 「相変わらずだねぇ、雪月は」 ……同じに見えるな。さっきの一瞬だけだ。 気のせいだったのかな……。 放課後、誰もいなくなった教室に一つだけぽつんとカバンが残されていた。 雪月のだ。 俺はさっきの雪月の表情がひっかかり心配になった。 足がかってに屋上に向く。もし一人になりたいとしたら最初に思い浮かぶのはそこだったから。 屋上のドアを開けると雪月の姿があった。ぼーっと景色を眺めている。 俺は少し遠くから雪月の顔をのぞいた。淋しそうな表情をしている。 俺は雪月に近づき声をかけた。 「雪月」 「守……どうかした?」 さっきの淋しそうな表情は消えて、いつもの明るい顔だ。 「……守?」 でも無理しているんだろうな。もしかしたら今までずっと。 「ねぇ守ってば。どうかしたの?」 「無理するなよ」 「……え?」 雪月が疑問の声をあげる。 「たまには弱さ見せたって罰は当たらないぞ」 「何言ってるの?」 雪月はまだ何を言われているのかわかっていない。 「彼氏にふられて辛いんだろ?淋しいんだろ?」 「そんなことないよ。別に平気だよ」 雪月の表情は変わらなかった。 「じゃあ何であんな淋しそうな顔するんだよ」 その言葉で雪月の表情が変わった。否定の言葉も出てこない。 それでもまだ隠そうとしているのか俺から目をそらした。 「泣いちゃえよ。我慢することない」 そう言って優しく肩をたたいた。 雪月はこらえきれなくなったようだ。目には涙がたまっている。 それでもまだ雪月は自分を抑えようとしていた。 手をぎゅっと握りしめてその涙が溢れるのを抑えている。 「我慢するなって。無理してないで泣いちゃえよ」 ぎゅっと握りしめて顔を隠そうとしている手をはずさせた。 瞳から涙がこぼれ落ちる。 雪月はその場にしゃがみ込んだ。 今までどれくらいの涙をこらえていたんだろう。全部自分の中にため込んでいたんだろうな。 誰にもその弱さを見せられず。誰にもばれないように無理して明るい自分を作って。 きっとずっと長い間それを繰り返していたんだ。 俺は雪月の涙が止まるまで黙ってそばにいた。 雪月の涙が止まったのを確認すると俺は沈黙を解いた。 「たまには弱さ見せてもいいじゃん。雪月は無理しすぎだよ」 「……みっともない」 雪月はうつむいたまま答える。 「そんなことない。みっともないなんて思うなよ。そこまで無理して隠す必要なんてないんだぞ?そんなに隠すの辛いだろ?誰にも言えないなら俺に言え」 「何それ……」 俺は雪月の前に行きそっと髪に触れた。 雪月が顔を上げる。 「一度見られたんだからもう隠すことないだろ?そんなに無理してるとな、いつか壊れちまうぞ」 「……うん」 弱いとこ見られちゃったせいなのかな。今日の守は何だか頼もしく見えた。 この日泣いたおかげかな。 そのあとは笑ってるのが辛くなかった。無理に笑顔を作らなくても平気だった。 ある夕方携帯が着信を知らせる。 「もしもし」 「あっ守?ちょっと出てきて欲しいんだけど……」 「……?わかった」 友達の少し焦った声にそう返事をして言われた場所に向かった。 「あれ?みんなも……」 言われた場所に着くと友達を数人発見する。 「俺らも呼ばれたんだよ」 そこに雪月だけいないことに気づく。 まだ来ていないのかなと思う中、友達が言った。 「実は……雪月がいなくなっちゃったの」 その言葉で俺達のまわりの空気がしんっと静まりかえった。 「……どういうことだ?」 「今日一時半にここで待ち合わせしてたの。でもずっと来なくて……。忘れてるのかと思って携帯に電話したんだけど出なくて……」 「そのあと家にも行ったんだけどいなくて。どうしたらいいか……」 俺は一瞬頭が真っ白になる感覚を覚えた。 雪月のあの淋しそうな、辛そうな表情を思い出してしまったからだ。 もう辺りは薄暗い。この薄暗い街のどこかで雪月は何を思っているんだろうと考えたら――。 「とにかく探そうぜ」 真っ白になった頭をはっきりさせたのは友達のその一言だった。 「俺達で探すから二人はどこかで待ってろよ。連絡あるかもだし」 その友達の言葉のあと、俺達は薄暗くなった街へ歩き出した。 探し始めてから二時間の時がたとうとしている。時計は六時半を示していた。 誰からも連絡が来ないということはまだ見つかっていない。 いったいどこに行ってしまったのだろう。 俺はふとある公園に入り込んだ。そこでベンチに座った人の姿を発見した。 それはすぐに雪月だと確認出来た。 「雪月!何やってんだよ!?」 うつむいていた雪月はゆっくりと顔を上げた。 「守?どうしたの?」 「どうしたのじゃねぇよ。お前友達とや――。何かあったのか?」 「え?……何で?」 別に淋しそうな顔をしていたわけじゃない。ただ不意にそう思っただけ。 でもその言葉を聞いた雪月の反応を見てそれが事実であることがわかった。 雪月は何でもないというような顔を作り言ったが一瞬違う表情を見せたからだ。 「何があった?」 「何もないよ?」 雪月は本当のことを隠そうとした。 「誰にも言えないなら俺に言えって言ったろ?何で隠すんだよ!」 雪月の顔から笑顔が消える。無理に作っていたであろう笑顔が消える。 「みんな心配してるんだぞ」 そう言ってポケットから携帯を取りだした。 「……呼ぶの?」 雪月が不安そうに俺の顔を見る。 「呼んでほしいのか?」 雪月はうつむいて静かに首を横に振った。 俺は何も言わず電話をかけた。 雪月は顔を上げさらに不安そうな顔で俺を見つめる。 「雪月見つかった。なんか待ち合わせ場所間違えたみたい。それで寝ちゃってた。あっ来なくていいよ。まだ寝ぼけてるし。うん大丈夫。じゃぁな」 電話を切ると雪月がつぶやいた。 「それじゃ私がバカみたいじゃん……」 「他に言い訳思いつかなかったんだよ。文句言うなら自分で連絡しろよ」 「ごめん……」 守は一つため息をつくとどこかへ歩き出した。 どうしていいかわからず、ついていくこともできなかった。 見捨てられちゃったかな……。そう思っても追いかけることができなかった。 少したつと守は戻ってきて温かい紅茶を差し出してくれた。 「体冷えちゃってるだろ」 守は私の隣に座り缶を開けた。私も缶を開けて一口飲んだ。 守は何も言ってくれない。それが辛かった。 何で守に言わなかったんだろう。聞いてくれたときに何で言わなかったんだろうって今頃後悔してる。 守に話さなかったらまた全部自分の中にしまうようなのに。 守が聞いてくれるかはわからない。でももう自分の中に隠すのは辛すぎた。 「今日ね……待ち合わせ場所に行く途中で別れた彼見たんだ。女の子と一緒だった……。それ見たら何か涙出そうになって……辛くて……。笑うことできなくて……行けなかった……」 雪月は涙を流しながらゆっくりとそう言った。 「だったら電話でもメールでもして断ればよかっただろ」 「できなかった……理由聞かれたら……何も思いつかなくて……」 「あいつら何回も電話してるし家にも行ってるんだぞ」 それを聞いた雪月はバックから携帯を取りだした。 「気づかなかった……」 「ったく……」 雪月は話し終わってもいっこうに涙は止まりそうにない。相当辛かったのだろう。 俺はただ泣きやむのを待つしかなかった。 俺に言えって言ったけど、雪月の気持ちは話したくらいじゃ楽にならないのかもしれない。 涙を流しながら話した雪月に、俺は優しい言葉じゃなくよけいに辛くする言葉をかけたのかもしれない。 雪月はまた口を開いた。 「何でいつもクリスマス前なんだろ……。お母さんがね……雪の降るきれいな満月の日に生まれたから、きっと幸せになれるよって言ってた……。でも……クリスマスはいつも辛いことばっかりだよ……。もう三回もクリスマス前にふられてさぁ……」 雪月は言いながらまた涙が増えている。 俺は何も言葉が出てこなかった。励ますことができなかった。 あの日言ったことなんてまるで無意味な気がした。 しばらくすると雪月の涙は止まった。 「守……ありがと」 涙でぼろぼろな顔に笑顔で雪月は言う。 「俺は何も……」 「そばにいて聞いてくれたじゃん」 雪月の声にはまだ涙が混じっていてすごく弱く思えた。 簡単に壊れてしまいそうな雪月。 もしそばで話を聞くだけでそうやって笑えるのなら俺は力になろう。 君が壊れてしまわぬように。 君が消えてしまわぬように。 僕は君に手をさしのべよう。 せめて君の心の支えになりたいんだ。 この日から雪月は辛いことがあると話してくれるようになった。 何もアドバイスできないし、うまく励ませない俺にありがとうと言ってくれる。笑顔を見せてくれる。元気になってくれる。 聞いてくれる人がいるだけで心が軽くなるよって笑うのだ。 やっぱり雪月には笑顔が似合う。 最近、本当にそう思うのだ。 「守、あんた彼女ができたって本当!?」 朝いきなり友達がかけよってきて興味津々に言う。 「……誰だよそんなこと言ってるの」 「そんなことはどうでもいい!で、本当なの?」 俺には有無を言わさずそう詰め寄る。 女の情報網というのは本当に早い。 嘘を言っても無駄なのはわかっているので俺は正直に言った。 「告白されて……まだ返事してない……」 「うわっ何やってんだよお前。あの子めっちゃかわいいじゃんかぁ」 どうやら相手ももうばれているらしい。 「だ……だっていきなりだったから……」 「あーじれったい奴!で、どうするんだよ?つきあうのか?」 男友達も興味津々に聞く。 「たぶん……」 そう言うと軽く殴られはやし立てられた。 その日の放課後、俺は告白してきた子に返事をしてつきあい始めた。 まだ一緒に帰るくらいのことしかしなかったけれど。 それから数日あとのことだった。 夕日に包まれた教室にぽつんと残る一つのカバン。俺は初めて雪月の涙を見た日のことを思い出した。 状況が似ているためだろう。 俺は屋上へと足を向けた。雪月の涙を思い出してしまったため気になるからだ。 屋上のドアを開けるとまるであの日のように、景色をぼーっと眺める雪月の姿があった。 ただ一つ違っていたのは雪月が涙をこぼしていたことだ。 俺は雪月に近づいた。 「雪月」 呼ばれたことにより雪月は一瞬俺の方を見たがすぐに顔をそむけた。まるで涙を見られたくないかのように。 最近はずっと涙を隠していなかったのに。 それでも俺はかまわず続けた。 「何があった?また元彼のこと思い出してたのか?」 雪月が涙する理由はほとんどがこれだ。 本当にそいつのことが好きだったんだろうな。今でもまだ思い出して泣いてしまうほど。 でも最近は泣くことはあまりなかったけれど。 「何でもない……」 「泣きながら何言ってるんだよ。話した方が楽になるんだろ?」 「本当に何でもないよ」 そう言うと雪月は屋上からかけ出ていった。 俺は何が何だかわからずしばらくそこに立ちつくした。 それ以来、雪月は俺に何も言わなくなった。 辛いことがないならそれはいいことだ。 でも雪月は自分の中に隠してる。たまにふっと淋しそうな表情がのぞくのがそれを証明している。 でもみんなの前で聞くわけにはいかない。 雪月が言ってくれない限り聞くのは難しいのだ。 「あっごめん。ちょっと忘れ物したみたい。取ってくる」 「うん」 彼女にそう告げ放課後の教室に向かう。 教室には一つの影があった。雪月だ。 「まだ残ってたんだ」 「うん。……守は忘れ物?」 「あぁ。……何かあった?」 「ん?成績が悪かったくらいかなぁ」 雪月はそう言って笑いごまかそうとした。 「違うだろ。ごまかすなよ。最近全部隠してるじゃん」 「そんなことないよ」 雪月は笑顔でそう言う。 「ごまかせると思ってるのか?どうしたんだよいったい。言えよ」 「彼女待ってるでしょ」 はぐらかすように雪月は言う。 あの日以来雪月は俺に何も言わず、結局終業式まで来てしまった。 今日聞かなかったらもうこのまま何も言ってくれない気がした。 「先に帰ってもらうよ」 「何考えてんの!?行きなよ」 「だって雪月このままじゃずっと言わないじゃん」 雪月はいきなり静かになり言った。 「守にはもう話さないよ」 「なっ……何だよそれ!?」 わけがわからなかった。今まで話してくれていたのに。 理由が考えつきもしなかった。 「守、彼女できたんだよ?そんなに聞けるわけないでしょ」 「……どういうことだよ」 雪月の言っている意味が俺には理解出来ない。 「彼女に誤解されちゃうよ?」 「別に大丈夫だろ」 「それに聞いてほしいときに聞いてもらえない」 「それはそうかもしれないけど……でもためこむよりい――」 「そんな中途半端ならいらない!聞いてほしいときに聞いてもらえないならいらないよ。それじゃよけいに……辛いよ……」 雪月はそう言うと教室から飛び出した。 雪月の目には涙が光っていた。 街はクリスマス色に彩られ、恋人達でにぎわっている。 みんな嬉しそうに笑っている中、私は一人涙をこぼして歩いていた。 最近何が辛いのかわからない。 守のおかげで彼のことはふっきった。 それなのにどこにいても苦しく感じてしまう。何もないはずなのに。 「ねぇねぇ君どうしたの?」 「一人?俺らと遊びに行かない?」 「辛いことあった?遊んで忘れようよ」 いかにも軽そうな三人の男が声をかけてくる。 私は無視して歩いた。 「シカト?冷たいなぁ」 「なぁ遊びに行こうぜ」 そう言いながら一人の男が私の手を引っ張った。 「やだっ放して」 「雪月!」 そこに息を切らした守の声が響く。 私は守から顔をそむけた。そして歩き出そうとする。 「雪月、待てよ」 もう一度呼び止められ肩をつかまれた。 「……何か用?」 守の方は見ないようにして答える。 「話があるんだ」 「私はないよ」 そう言って守の手を払いのける。 そして歩き出した。 「雪月!」 「ねぇ俺らと遊ぶ気になった?」 守の声に重なるようにしてあきらめていなかった三人の男が近寄る。 「……いいよ」 とにかく守から離れたくて私はそう返事した。 「おっやった!んじゃ行こうぜ」 そう言って軽く私の肩に手を回してきた。 それを見ていた守が私の前に回り込んだ。 「何やってんだよお前。行くぞ」 そう言って守は私の手を引いた。 「やだっ」 でもすぐにその手を払った。 「何でだよ」 その光景を面白くなさそうに見ていた三人が守にからむ。 「ちょっとあんた何なんだよ?あとから来てさぁ」 「彼女いやがってるじゃん」 「この子は俺らと遊ぶって言ってるんだからほっといてよ」 そう言ってまた私の肩に手を回して連れて行こうとする。 「雪月」 でも守は諦めずまた私の前をさえぎる。 「何こいつ、うざい」 「どっか行けって言ってんだよ!」 その言葉と同時に三人は守に殴りかかった。守は抵抗できずそのまま殴られた。 私は少しの間動けなかった。 「やめて!もうやめてよ!」 体が動くようになると私はすぐにそれを止めようとした。 でも三人は聞こうとしない。 守は相変わらず殴られている。複数だし体格的にも守は負けている。 私は携帯を取り出し叫んだ。 「それ以上殴ったら警察呼ぶから!」 その言葉で三人の手は止まった。 「早くどっか行ってよ!」 「ちっ何なんだよまったく」 そうぼやき最後に一発守を蹴ると三人は立ち去った。 「あーぁ……かっこわりぃ……」 守は一言つぶやいた。 「何やってんのよ……もぅ……」 雪月は俺の隣に座り込み涙をこぼしながら言った。 「あんな奴らに連れて行かれたら何されるかわかんないぞ」 「わかってるよそんなの……もぉ……ばかぁ」 久しぶりに無防備に涙を流す雪月を見た。 「そうだよなぁ。ぼこぼこにされちゃなぁ……ほんと……かっこわりぃ……」 「そんな……ことない……。嬉しかったもん……」 俺は起きあがり泣きじゃくる雪月を抱きしめた。 雪月は抵抗をしない。 「話……聞いてくれるか?」 雪月が俺の腕の中で一つうなずくのを感じた。 「俺、彼女と別れたんだ」 「何……でぇ」 まだ泣きじゃくる声で雪月は言う。 「俺、あの子が泣いてもどうでもいいんだ。あの子が淋しそうな顔しててもそんなに気にならない。でも雪月だと心配でしょうがないんだ。気になってしょうがないんだ。雪月の涙を見たとき、せめて心の支えになってやりたいって思った。さっきそれをいらないって言われてショックだった。……俺、気づいたんだ。雪月のこと好きなんだって」 俺は雪月を抱きしめている腕をほどいた。 雪月はうつむいてまだ泣いている。 俺は雪月の気持ちを早く知りたかったけれどゆっくり待つことにした。 「あっ雪だ」 守がいきなり声を上げる。 その声に私は顔を上げた。 空からは白い粉雪が舞い落ちてくる。この雪は私の涙を止めた。私の心の曇を晴らした。 埋めて隠してしまった気持ちを見つけられた。 最近ずっと辛かったのは――。 「……守」 「ん?」 空を見上げていた守は優しい瞳で私の方を見た。 「私も守のこと好きだよ」 守は驚いた表情を見せたがすぐに私を抱きしめた。 「本当か!?」 「うん……。私ね……守に彼女ができたから辛かったの。私より彼女が大事になって私の話聞いてくれなくなって……。そう考えたらすごく淋しかった。でもそんなの守に言えなくて自分の中でうやむやにして。その気持ち全部覆い隠しちゃった……。気づきたくても……気づけなかった」 守はくすっと笑う。 「俺達何やってんだろうな。すれ違わなきゃ気づかないなんてさ」 「もしすぐに気づいてたら守こんな目にあわなかったのにね……」 雪月がうつむいて言う。 自分を責めているようだ。 「雪月が悪いんじゃない。俺だって気づいてなかったんだ」 「でも私がちゃんと守の話聞いてたら……」 俺は強く雪月を抱きしめた。辛そうな顔で自分を責めている。雪月が悪いわけじゃないのに。 だったらいっそ――。 「いいんだよ。雪月がちゃんと自分の気持ちに気づいてくれたから。俺にはそれだけで充分なんだよ」 ――泣いた方が楽だろう。 雪月は止まったばかりの涙をまた溢れさせた。俺にしか見せない涙。ずっと守ってやりたい。 雪月の涙がある程度おさまると俺は言った。 「ツリー見に行こうか」 「……え?」 きょとんとした顔で雪月が俺を見る。 「行こうよ」 俺は雪月の手を引いた。 「ちょ……ちょっと待ってよ守。先にその傷……」 「気にするな」 そう言っていた守を無理矢理公園に連れて行く。 ハンカチを水で濡らして傷の汚れを拭く。 「別にこれくらい平気なのに」 「ばい菌入ったら大変だよ」 「平気だって」 「……心配なの」 その言葉で守は静かになった。 ハンカチで傷を拭き終わると私達は歩き出した。クリスマスツリーを見るために。 「わぁきれいだぁ」 「もうすぐライトつくよ」 守が時計を見ながら言う。 数分後、クリスマスツリーはライトアップされた。 あたりはまだそんなに暗くはない。でもライトアップされたツリーはさっきよりきれいに見えた。 少し暗くなるとそこからは早く夜へと姿を変える。 クリスマス色の街に白い粉雪が舞い落ち、ライトアップされたツリーはすごく幻想的に見えた。 「誰もいなくなってくれたらいいのに……」 守がふとつぶやく。私は黙ってそれにうなずいた。気持ちは同じだ。 二人きりでこの景色を見たい。 「雪月さぁ、クリスマスは辛いことばっかりだって言ってたよね?」 「うん」 「今までずっと辛い思いしたのはさぁ、クリスマスは俺としか幸せになっちゃいけないからだったんだよ」 「何それ……」 守は優しい顔でそう言った。 「だってそう考えた方が幸せじゃない?」 「うん、そうだね」 空には満月があり私達を照らし出す。 白い粉雪をきらきらと何倍もきれいに見せる。 私の生まれた日もこんな感じだったのかな。 「誕生日おめでとう雪月。プレゼントは――」 そう言うと守は私にキスをした。 「なっ……」 顔がほてっていくのがわかる。こんな人前で……。 「いいじゃん。みんなどうせ見てないから。クリスマスプレゼントにもう一回してあげようか?」 何のためらいもなく私はそれを受け入れた。 周りには恋人達ばかり。意識しているのはお互いのことばかりだろう。 「……ありがとう」 そう言って雪月は恥ずかしそうにしながらも最高の笑顔を見せた。 今年のクリスマスイブは雪月にとって最高の誕生日になっただろう。 君が壊れてしまわぬように。 君が消えてしまわぬように。 僕は君に手をさしのべよう。 君のすべてを守っていくから。 |