春、桜が咲き乱れる4月、私は彼に振られた。今まであんなにうまくいっていたのに。
 お互い忙しくなり会う時間が少なくなった。それでも私は平気だと思ってた。
 でも彼には心のすれ違いが感じられたのだ。同じ高校に入っていたらきっとこんなことにはならなかったのに。

 辛いことがあるといつも来ていた公園。小さい頃から変わらない桜の木。この日もこの桜の木の下に座って泣いていた。
 するといきなり強い風が吹いて桜がいっぱい舞った。
 その中に1人の男の子がたっていた。その男の子には日の光があたりなんだか羽がはえているように見えた。
 彼は私に何も言わず桜の花を渡してくれた。そしてどこかに行ってしまった。
ぼんやりしていた頭がはっきりすると私の涙は止まっていた。

 それから2人の思い出を振り返った。そんなに辛くなかった。
 家に帰って男の子がくれた桜の花を押し花にした。なんだかお守りになるような気がしたから。
 それからしばらく何もなかったのであの公園に行くことはなかった。

 梅雨が明けて天気のいい休日。私はぶらっと散歩に出かけた。あの公園に。
 そして緑の葉が生い茂る桜の木の下に座った。木の葉の間から射し込む日の光がきらきら輝いてきた。それがまぶしくて目をつむっていた。
 するといきなり風が吹いてきた。
 目を開けると前に男の子がたっていた。桜の花をくれた男の子だった。
「また何かあったの?」
「え?」
「この前泣いていたから……」
「あの日は彼に振られちゃって……今日はただちょっと散歩に」
「そっか。ここにいる時はいつも泣いていたからまた何かあったのかと思った」
「え?今なんて?」
「なんでもないよ」
「あのときは桜の花どうもありがとう」
「どういたしまして」
「なんだかお守りみたい。あのあと泣かずにすんだんだ」
「それはよかった」
「あの日なんだかあなたが天使に見えたの。日の光があたって羽がはえているように見えた」
「天使……かぁ」
「うん。また会えてよかった。いつもここにいるの?」
「うん。いつでもここにいるよ」
「それじゃまた遊びに来よう。名前教えて?」
「桜木晴也、君は?」
「藤野美咲だよ。それじゃまたね」

 あれから1週間経った休日。私は公園に出かけた。晴也君に会いたくて。
 公園内を見渡したけど晴也君は見あたらなかったから桜の木の下に座っていた。
 からっと晴れた晴天。なんだか気持ちよくて眠ってしまいそうなとき名前を呼ぶ声が聞こえた。
「美咲ちゃん」
「晴也君……」
「どうかしたの?」
「え?」
「なんだかぼーっとしてたから」
「気持ちよくて眠っちゃいそうだっただけ」
「そっか」
「ねぇ、どこか遊びに行こうよ」
「いいよ」

 この日から私たちはよく2人で遊びに行くようになった。映画を見たり、ショッピングをしたり。とても楽しい日が続いた。
 この夏の思い出は今までで1番最高だと思った。
 そして季節は移り変わり秋になった。

「最近晴也君元気ないね。なにかあったの?」
「うーん……そう?」
「なんだかぼんやりしてる」
「秋は物恋しい季節って言うでしょ」
「変な理由」
 私は思わず吹き出してしまった。それからしばらく笑いが止まらなかった。
 晴也君も自分で言ったくせに笑っていて。元気なさそうに見えたのは気のせいだったのかな。
 でもその思いはあまり長く続かなかった。

「今日で1週間……か」
 桜の葉も全部落ちた頃、晴也君は公園に現れることが少なくなった。家も何も知らない私にはどうすることもできなかった。
 ただいつもの桜の木の下でひたすら待つことしか……。
「美咲ちゃん」
「晴也……君!?」
「ごめんね、最近いなくて」
「ううん、大丈夫だよ」
「どこか行く?」
「あっ私遊園地の割引券持ってるんだ」
「それじゃ行こうか」

 会っているときはいつも元気だった。でもなぜか晴也君はいることが少なくなる。冬になるにつれてだんだんと。
 私はただ待つだけの日々が続いていた。でも会うと悲しさは吹き飛んだ。その日めいいっぱい遊んだ。
 そして12月後半、雪が降り始めた。
 雪が降ってから晴也君は全く現れなくなった。私も寒くなったから公園に行くことが少なくなった。

 それから雪が溶けた3月。その日はぽかぽか暖かくて気持ちいい日だった。
 私は久しぶりに公園に散歩に出かけた。そして桜の木の下に座ってぼーっと考え込んでいた。晴也君のことを……。
 すると風が吹いてきた。春の暖かい風。目の前には晴也君がたっていた。
「久しぶりだね、美咲ちゃん」
「晴也……君」
 私はなぜか涙がこぼれていた。
「美咲ちゃん!?どうしたの?」
「会いたかった……。ずっと……」
「うん」
「晴也君……好きです」
「ごめん……」
 予想できなかった言葉。だってあんなにずっと一緒にいたのに。
 何も言わなくてもお互いそうだと思っていたのに。
「ここに来ていない間に彼女でも出来たの?」
「ちがうよ」
「じゃぁどうして?私のこと迷惑だった?」
「それもちがう。僕は君を好きになることは許されない」
「どう……して?」
「知りたいの?」
「知りたいよ」
「じゃぁ教えてあげる。僕は人間じゃないから。僕は桜の精霊だから……。人を好きになることは出来ない。美咲ちゃんは僕と初めてあった日、僕を羽がはえた天使みたいだっていったよね。それはきっと僕の本当の姿を見たから。精霊の僕を見たからだよ」
「うそ……でしょ?」
「本当だよ。僕はこの桜の精霊。冬になってここに来れなかったのはこの桜に何もなくなってしまったから。葉が全部落ちてしまったから」
「そんなの……信じられないよ」
「事実なんだよ。僕だって許されるなら……でも……ダメなんだよ。小さい頃からずっと君を見ていた。いつもこの木の下で泣いている君を。その頃からずっと……僕は許されない思いを……抱えたままだった。このことを話した以上もう美咲ちゃんの前に現れるわけにはいかない」
「え?」
「今日でお別れだね。でも僕はずっと君を見守っているよ。永遠に」
 すごい強い風が吹いた。私はびっくりして目をつぶった。
 そして風がやんで目を開けたとき、晴也君はいなくなっていた。
 ぼーっとしていた私の後ろから声が聞こえた。
「美咲」
 それは去年の春、別れた彼だった。
「俺、この1年美咲を忘れることが出来なかった。やり直したい……。もう……遅いか?」
 不思議だった。今までずっと晴也君のことを考えていたのに、彼に心が戻ってしまった。
「遅くないよ」
 私は彼に抱きついた。なぜか涙があふれてきた。
「ごめんな……」
 強い風が吹いた。そしてまだ咲いていないはずの桜の花びらが舞っているように見えた。びっくりして私の涙は止まった。
 すると手の中に桜の花が入っていた。
 これはもしかしたら、晴也君がくれた最後のプレゼントかもしれない。