「ちょっと貴方、そこの貴方よ。スペルビさん?待ちなさい」
「あ゛あ?何だぁ?」
「何だ、じゃなくて何ですか、でしょう?」
「貴方、ちょっとスカートの丈が短いんじゃない?ほら真っ直ぐ立って!」
「別に良いだろ、丈なんかどーでもよぉ…」
「良くないから言ってるんです!かなり短いわね、直しなさい」
「面倒くせぇな、背が伸びたから短くなってんだよ」
「その為のベルトでしょう。貴方が違反してるから注意してるんです、早くなさい」
「はぁ…ったくよぉ…」
「ちょっと、何です?そのベルトは」
「何って、ただのベルトだろ」
「ベルトの色は黒、白、紺、飴色のいずれかと決まってるでしょう」
「知らねぇよそんなこと」
「知らない、じゃないでしょう、生徒手帳に書いてあります。それと髪は 肩の三線を越えたら結ぶこと」
「それならゴムがあるぜぇ」
「ちょっとその髪留め!髪留めの色も黒、白、紺、飴色のどれかと決まってるでしょう。没収します」
「う゛お゛ぉいてめぇが結べって言ったんだぞぉ!没収っててめぇ!」
「代わりにこれを貸します、明日からはちゃんと校則通りの髪留めで結んで来て、これは返すこと」


白いリノリウムの床をかつんかつんとヒールで鳴らして漸く教師がスクアーロの後ろへ遠ざかって行くと、彼女はすぐさま、渡された紺色の、小さなリボンが付いたゴムを髪から外した。
「くっだらねぇ」
膝小僧が隠れるまで引き下ろされたスカートも、すぐさまウエストを折り直す。合皮らしいチープな発色の赤色のベルトで、何度も折り込んだウエストを留めていると、すぐ後ろで声がした。

「また注意されてたのか。目ぇ付けられてんじゃねーか」
「また重役登校かよ、お前こそ目付けられるんじゃねぇの」
振り向いた視界に映ったザンザスは、まだ靴すら履き替えていない。まさに今来たばかり、といった様子だった。
答えずに小さく鼻先で笑い、広い廊下の真ん中に並んだロッカーの列の間に入って行く彼女と同じように、スクアーロもその間に入る。次の授業のテキストを出す為だ。
太陽の真下なら透けてしまいそうな薄い生地の夏服に、ワンサイズ大きい紺のセーターを重ねているザンザスが屈むと、斜め上から見下ろすスクアーロには、胸当てのない制服の襟元から黒いレースの下着と、彼女にはないまあるく膨らんだ谷間がちらりと見えた。ロイヤルブルー、と称される絹のリボンは先の方で申し訳程度に小さく結ばれているだけで、セーターの下から覗くスカートはスクアーロよりも更に短い。けれども、スクアーロはザンザスが教師に注意されているのを見たことが無かった。それがボンゴレのご令嬢への待遇なのだろうか。
革靴を上履きに履き替えたザンザスは、靴箱のドアを蹴って閉める。アルミががしゃん、と大仰な音をたてる。
分厚い辞書を引っ張り出したスクアーロもロッカーのドアを閉めて、鍵のダイヤルを回した。


授業と授業の合間の休み時間、しゃらしゃらと甲高い少女たちの声が響く教室に入ると、ザンザスは窓際にある自分の席へと向かう。スクアーロはそれを追いかける。夏、というには及ばないが、春というには今日は暑すぎる。薄く光りを透かすカーテンを捲って、スクアーロは窓を開けた。
途端に地上四階の風がカーテンを巻き上げて教室を吹き抜ける。それは彼女の髪にも吹きつけて、スカートの裾を大きく揺らす。風を孕んだ白いセーラー服からは細い背の、一直線に並んだ窪みが覗いた。

「いきなり窓なんか開けんじゃねぇドカスが!」
風に巻き上げられたカーテンに視界を覆われたザンザスが、椅子の下からスクアーロの足を蹴る。真っ白いソックスが薄く汚れる。
「だって暑いんだもんよぉ」
拗ねた風に唇を小さく尖らせた彼女は、それでもからからとガラス戸を滑らせて隙間を細くした。風で浮かされていたカーテンが、元通りに窓に寄り添う。スクアーロの、伸ばし始めのまだ不揃いな髪も首筋に添う。
いつの間にか授業開始の時間が近づいていた。周りの生徒は自分の席に着き始めていた。
「じゃあ、また後でなぁ」
彼女も辞書を手に、自分の席へと戻る。ザンザスは答えずに頬杖をつく。 棒きれのような細い足を包むソックスが、自分が蹴ったまま汚れているのが見えた。
眺めた時計の針がぴったり一時半をさして、チャイムが響く。午後の授業が始まる。