サンプルは『ハレンチパンチ』『DOGOD』『ロマンス イン アンバー』より抜きだしています。 ハレンチパンチより 「脱げ」 下着越しにしつこく触れて焦らすことなく、ザンザスは短く命じた。ソファに座った彼と、座面に膝を付いたスクアーロが向き合った体勢では、ボトムスは脱ぎにくいし、邪魔になる。 「おう」 言われてスクアーロは、反り立った肉塊から手を離し、一度床に立つ。自分の足で立ってみると、腰が酷く重くて、その上、膝が崩れそうなほど、自分が高められていることを思い知らされた。三十路を過ぎて、百人斬りを終えて、二代目剣帝を名乗るようになっても、やはりこうして、肉の欲に翻弄されている。回数を重ねたから、というよりも、元々の気質で、恥じらうこともなく下着とボトムスを一緒に脱いで、床に放った。ウエストに入れる為に、長く作られているシャツの裾が腿に触れて、まるで丈の短いワンピースでも着たかのようだった。その正面は、上向いた性器に持ち上げられている。スクアーロが動く前に、伸びてきたザンザスの手が腰を掴んで、自らの膝へと彼を再び引き寄せる。そうして無言で、口元に指を差し出す。 「…ん…」 これが何に使われるのか、分かっているから、スクアーロは丹念にその指を舐めた。漸く薄くなり始めた、茨が絡み付いたような凍傷の傷が、舌に触れる。ザンザスの指先は固いが、爪は鑢で整えられているから、断面さえも滑らかで、スクアーロはそれを舌でなぞるのが少し好きだ。爪と、指の間の肉にまで、舌先を伸ばす。三本の指を咥え、閉じられない唇の端から唾液が伝うのが分かる。高い節はもちろんのこと、指の股まで唾液で濡らして、まるで飴でもしゃぶるように、舌で撫で、唾液を纏わせる。やがて透明な唾液でぬめった指が口から引き抜かれて、シャツの裾の中、ザンザスが足を開いて座っている所為で、一緒に開かれた狭間をつついた。指を引き抜かれてしまった後の唇は、寂しい。それを埋めるように、指に絡めきれなかった唾液ごと、スクアーロは再びザンザスの唇に己の唇を寄せた。まるで開脚させる椅子を使われているように、狭間が開かれているから、その奥の窄まりが空気に触れて竦む。隙間なくぴったりと閉じたそこへ、濡れた指の先が触れて纏った唾液を馴染ませる。 「んん゛…っ、はぁ…」 今は慎ましやかに閉じたそこの周りを軽く押し、呼吸に合わせて、まずは指を一本差し込む。内側の肉の感触に、反り立ったものが一層勢いを増す。狭苦しい粘膜の内側へ、自分のものを突き立てる、まるで刺し貫くような感覚を、ザンザスはよく知っている。薄い下腹に幹が埋まると、腕の中でよく撓う体がのたうつ。声が高く掠れ、青みがかってさえ見える肌が、上気して赤くなる。 「ひ、ぁ…っあ、ぅ…く…っ」 二本目、三本目の指で内側を押し広げられて、スクアーロは背筋をぶるっと震わせた。快感にではない。もちろん、快感もあった。内側からしか触れられない場所を、直に刺激される感覚に、足の間のものからは先走りが溢れている。けれど、それとは別にスクアーロの背筋を震わせ、下腹を緊張させるものがある。内側から押されているから、その感覚は強くなるばかりで、耐えようにも非常な苦労が要る。 「な…、なぁ…その、トイレ…」 このまま、指の何倍もの質量で押し広げ、突かれてはとても堪え切る自信がないと、ザンザスが指を引き抜いたと同時に、彼は口を開いた。 「あ?」 眇められた赤い目が、スクアーロを見上げる。さすがに今この時ばかりは、その視線に怯む。 「…トイレ、行きてぇ」 小さな声で、けれども相手にしっかり届くように、もう一度スクアーロは言った。下着とボトムスを脱ぐのは恥ずかしくないが、今は、自分でも頬がカァと熱くなるのが分かった。許可を待って向けた目の先で、ザンザスはくだらないとばかりに、フンと小さく息を吐く。 「どうせ今行っても出ねぇだろ。せいぜい我慢してろ」 彼の片手は、力強くスクアーロの腰を掴んでいる。大方、予想はついていたのだ。入口を指で解しても、前立腺を押し上げてみても、何かを堪えるように力が入っていて、内側が柔らかくなりきらない。下腹に力が篭って、時折右手の指がびくついて、背筋を緊張させている。嫌がる素振りは無く、痛い筈もないのに、集中しきれないでいる。 「我慢って!」 掴む手を振り払う勢いで、スクアーロは叫んだ。無理だ。不可能だ。痛みには耐えられても、これを耐えられる自信はない。痛みはただ堪えれば良いが、こちらはそうはいかない。いや、ただ堪えるだけならば、できる。子供でもないのだから、それだけなら勿論できるのだ。けれど、これから後の行為を思えば、ただ堪えるだけで済むことではないと、もう今から分かっている。ザンザスに抱かれるのは、それだけで元から少ない理性が飛んでしまう程、気持ちが良い。その上今日は百人斬りの最後の遠征から帰ってきたばかりで、久々の情交である。正気で居られる気がしない。キスをしていた時、胸を嬲られ、ザンザスのものを手の内で育てていた時、既に体の内側で赤い火が燃えて、理性や正気はまるで長く使った蝋燭みたいにどろどろに溶けていた。夢中であった。我慢なんぞ利かないのだ。 「堪えとけ。締まりが良くなるぜ」 「ひ…っ!ふざけんな、抜け…っ!抜い、て…!」 喚くスクアーロに構わず、ザンザスは目の前の体を引き寄せて、自分の股座へ座らせ直す。彼の腰を跨いで、大きく開いた足の間に充血して張り詰めた肉の楔が埋まっていく。けれど、抵抗も本気だ。右手が腕を掴んで、左手が胸を押し返す。自分の体重で、狭い粘膜へ、筋の浮き出た幹を飲み込みながらも、イヤイヤと身を捩る。 「うぜぇ」 「ぎゃっ!」 嫌がられるのに飽いて、ザンザスは、小さく引き締まった尻をパン、と叩いた。本気で叩いた訳では勿論ないが、それでも一回で肌が赤くなるほどに、強かに打った。 「色気のねぇ声出すな、萎える」 「萎えろ!ンで抜い…ッひぃ…っや、やめ…っぅ、ん゛…!」 叩いた尻を、今度はぎゅっと内側に揉み込む。そうすると、突き立てられた肉棒に狭間の柔らかい皮膚が擦れて、火傷しそうな程の熱さを感じる。既に内側に潜っている部分が、胎内にごりごりと押し付けられる。指の長い、大きなザンザスの手で、スクアーロの尻たぶの片方は楽に覆ってしまえる。元々足が開いているのに更に左右に、まるで卵を割る時のように開かれて、薄い皮膚が引っ張られる。露わになった窄まりが大きく口を開けて、逞しい雄を咥え込む。大きさも固さも、腹の中を焼くような熱さも全て、指とは異なるものを押し込まれて、スクアーロはもう、抵抗するどころではなかった。自分の体重が、そのまま挿入を深くする。丸いけれど固い切っ先が、指では届かなかった場所を抉じ開け進んでくる。まるで神経を直接嬲られているように、脊髄をビリビリと電気が走る。 「ムリ…ッ、ダメだって、ァ…ッは…」 開かれた狭間に、先程掴んだ下生えがざらりと触れた。反り返って猛ったスクアーロの性器から、先走りがとろりと零れて茂みを濡らす。髪の毛よりもほんの少しだけ濃いめの銀色の毛と、黒い毛が隣り合って絡まりそうだ。体の内側から圧迫される下腹は、苦しい。苦しさにますます力が篭って、濡れた粘膜が強くザンザスを締め付ける。 「は…っ、ガキみたいに漏らすか?二代目剣帝が笑えるな」 人の悪そうな笑みを浮かべて、自分を飲み込んでいる下腹を押す。途端に体を強張らせるものだから、締め付けられた性器が痛い程だ。けれどどうせ、射精しない内には排泄もできない。どちらもまだ、出させる気はなかった。 「う゛あ…っ誰が、漏らすか、ぁ…やあ゛…っ!」 向かい合った腰を軽く抱き上げて、引き下ろすと同時に自分も腰を上げる。粘膜の壁の間に、熱い肉塊が潜り込む。まるで、串刺しにされるような心地を味わって、スクアーロは悲鳴をあげた。その声さえも、体に力が篭っている所為で少しくぐもっている。精液と尿が混ざらない為に、勃起している時には排泄ができないと知っていても、素直に浸れる筈がなかった。けれど下腹に力が篭ると、それと同時にザンザスのものを受け入れている窄まりも、まるで生殖器のようにそれを飲み込んでいる内壁も狭まって、亀頭の括れや根元の太さ、脈の一つまでもを、ありありと感じてしまう。まるで吸い付かれているような感覚に、ザンザスが吐息を溢す。中で彼の性器が、一層膨らむ。押し広げられる感覚に耐えきれない、とばかりにスクアーロはかぶりを振った。 「ふあ…っぁあ…っん゛…っ!」 銀色の長い髪がぱさぱさと音を立てて揺れ、ザンザスの頬まで打つ。彼はそれを咎めない。咎めずに、引き寄せた腰を更に押さえつけて、先走りを垂らしているものに手を伸ばす。五本の指で包み込んだ性器を、まるで搾るようにぎゅっぎゅと揉んでやる。 「やめ…っや、本当、ムリ…ッボス、っく、ぅ…」 堪える体が、背筋を丸めてこちらへ傾いでくるから、彼は目の前に差し出された、赤い小さな実を齧ってみた。 「ふあ…ッ!?あ゛…っひ、うう…っ」 嬌声とも悲鳴ともつかない、そのどちらもが混ざり合ったような声が、ひっきりなしに溢れて唇を濡らす。スクアーロの右手が、ザンザスの手首を掴み、爪切りで切られただけの、断面に角のある爪が浅く肌を引っ掻く。それすらも彼は咎めない。 DOGODより 「俺がいつ、エンリコの野郎を殺して来いなんて言った?」 「う゛…そりゃ、言ってねぇけど…」 ぼたぼたと血を流す鼻を押さえながら、スクアーロが視線を伏せる。血は彼が嵌めている黒い手袋にも染みていた。鼻腔の中が血で塞がれているせいで、もともとお世辞にもきれいとはいえない耳障りな声なのに、さらに鼻が詰まったように聞きとりづらくなる。 「命令されてもねぇことやった挙句に人に見られてたんじゃ、使えねぇにも程があるな。ん?」 掴みあげた顔を覗きこむと、青みがかった淡い灰色の目が揺れて、いつもは勝気そうに吊りあがっているばかりの眉が情けなくさがった。前髪をひっぱる手を離させようと、ザンザスの手首にかかっていた左手が、力なく体の横に落ちる。まだ馴染みきってはいないはずの偽物の手だ。 さきほどザンザスに差しだされていた耳は、今はスクアーロの指先からこぼれて、ぽつんと床に落ちていた。これも、スクアーロの体の横に下ろされた左手も一緒だ。持って来いと言った覚えもないのに、ザンザスの意見などてんで関係なしに勝手に差しだされたものだ。 「でも…」 おのれの唇に凝った血を舌先で舐めて、スクアーロがおずおずと言いかける。けれどその言葉を待たずに、ザンザスは今度は平手で彼の頬を張った。パン!と大きく音がひびいて、叩かれた少年が口を噤む。 「俺はエンリコを殺せと命令したか」 赤々と燃える炎の両目が、スクアーロを見据える。強く掴まれたままの髪が何本かちぎれる、その小さな音がスクアーロの耳にも届く。 「してねぇ」 あまり動かせはしない顔を横に振って、スクアーロは答える。伸ばしているさなかの後ろ髪が、青い血管の透けた首筋のまわりでぱさぱさと揺れた。 「下手な殺しをして他人に見られろと言ったか」 十代の少年たちにとって、二歳の差は猫とライオンの違いほども大きい。双方とも猫科にはちがいないが、体の大きさも牙の太さも、爪の鋭さもまったく違うのだ。問いをかさねるザンザスの声は低くスクアーロの体に染みわたり、まるで目には見えない炎がそこにあるかのように肌が熱される。スクアーロは続けてかぶりを振った。 「言ってねぇ」 じりじりと肌を焼かれる。なのに背筋はさむけにふるえる。目の前にあるのは恐ろしく、けれど恋しい大きな怒りだ。 「てめぇの主人は誰だ」 「御曹司、お前だぁ」 そこまで聞いてようやく、ザンザスは掴んでいた髪から手を離した。指をひらくと抜けてしまった銀色の髪の毛が、彼の手からはらりと落ちて床に散る。蜘蛛の糸に似た銀の髪は絨毯の深い毛足にまぎれて、すぐにどこに落ちたのかわからなくなる。それまでひたりとあわせていた視線を剥がし、ひとつ息を吐いてからザンザスがふたたび口をひらいた。小さな子供相手に、寓話を語り聞かせるかのような口ぶりであった。 「…最近拾った犬が、命令を聞きもしねぇで勝手に小屋から抜け出して勝手に獲物を持ってくる。おまけに他の家の庭で小便までしてきやがった」 「何だぁそれ。ずいぶん躾の悪い犬だなぁ」 「お前ならこの犬をどうする?」 「どうするってそりゃあ捨て…、…嫌だザンザス!捨てねぇで…」 何のことなのか少しもわかっていない表情で首を傾げていたスクアーロにも、遅れてこの話の意味がわかったらしい。言いかけた言葉をあわてて唇の内側にしまい、血相を変える。 その姿にザンザスは肉厚な唇の、片方の端だけをゆっくりと引きあげた。目を細めると赤い瞳をつつんだ陰のような睫毛が目立つ。悪漢の笑みだ。 「こっちとしちゃこんな頭の悪い犬を飼ってても何の役にも立たねぇ。それどころか恥さらしだ」 「あ゛…いや、嫌だ…!」 「躾けてどうにかなるものなら考えるがな…もう二度とこんな真似はしねぇか?」 「っ…、……」 親に置いてきぼりにされる子供か、あるいは本当に主人に捨てられる犬のように縋りついていたスクアーロは、けれどザンザスの問いには迷いをみせて黙りこんだ。スーツの胸元を掴む指先がこまかくふるえて、固まった血のついたうすい唇が噛みしめられる。それを否の合図ととったザンザスが、性悪そうな笑みさえも消して低く言う。 「捨てられたいってことだな」 いますぐに放逐する。そう言わんばかりのザンザスを前にして、スクアーロはついに泣きだしそうに声を裏返らせて叫んだ。 「違う!いやだ!でも…でも、絶対許せなかったんだぁ!あいつ、お前の悪口言ってやがった。本部の奴と一緒になって…あんたの母親は娼婦だって。だからあんたもどこの馬の骨だか知れないって。許せねぇ。自分の家が分家だからって、お前のことやっかんでるんだぁ。だから、オレ、あんたに捨てられたくねぇけど…お前のこと悪く言う奴がいたら、また絶対やっちまう。あんたはすげぇのに、あいつら全然わかってねぇんだ。十代目候補なんてあんた一人がいれば十分なのに、あいつらなんかどうせなれっこないのに、それもわかってねぇんだぁ」 「…それで殺したのか」 一気呵成に告げたスクアーロに対し、ザンザスは静かにたずねた。あまりに早口で喋ったものだから、血が止まったはずの唇の傷からまた、礫のように赤い血がにじみ出ている。子供が泣き喚くかのような調子で声を裏返らせて言った彼の目は、けれども涙など一滴も流してはいなかったし、それどころかむしろ爛々と白くかがやいている。まるで狂人か、理性のない獣のような目だ。 人間に飼いならされた愛玩犬なんぞではなく、狼の血を色濃くのこすほの白い虹彩と、その真ん中にぽつんと浮かんだ小さな瞳孔。 「うん」 そんな目をしたまま、スクアーロは小さな子供が頷くように、素直に首を縦に振る。 「そんなに許せなかったのか」 「うん。絶対」 頭が足らないのか。そう疑いたくなるほど従順に頷く彼に、ザンザスは溜め息を吐いた。 「いいかスクアーロ。そんなのは良くあることだ。いちいち相手にするんじゃねぇ」 「でも…」 「だが、今度からは誰にも見られずに上手くやるっていうなら、許可してやらなくもない」 「御曹司!」 もったいぶった言い方ではあったが、たしかに主人の許可を与えられてスクアーロは喜んだ。一瞬で変わった表情は、まるで目の前に餌をおかれて、待てと命じられた犬が許されて餌皿に喰らいつくかのようである。あまりの変わりように愉快になって、ザンザスは目の前の少年の顔にこびりついた、かわいた鼻血の痕を舐めた。 「できるのか?」 舌先に鉄っぽい味を感じながら、うすい色合いの目を覗きこむ。 「もちろんだぁ」 答える眼差しがまた、人の道理のわからぬ獣のようにぎらついた。けれど同時に、撫でる手を求めるかのように彼の頬がザンザスの頬へ擦りつけられた。さきほど殴られた頬は熱をもって腫れていたが、そんなことには構わずスクアーロは頬を押しつける。膝で眠る猫のごとく甘えた仕草に気を害することなく、ザンザスは彼の頭を撫でてやった。伸ばしはじめたばかりの跳ねっ毛に、撫でる手指が沈んでくすぐったい。 「ん゛ー…ん、ぅ…」 かわいた鼻血の痕を舐め終え、目を閉じてごろごろと喉を鳴らさんばかりの彼の唇へと舌を移す。厚みも色もうすいそれの、さきほど切れた箇所を撫でると唾液が沁みたのか、触れあった肩がわずかにこわばった。わざと脅すように下唇に歯をたてる。びくりと跳ねた肩を掴んで、ザンザスはゆっくりと上下の唇のあわいをなぞった。 噛まれないとわかると、置いた掌の下で肩から力が抜けて、甘くひらいた唇の奥から舌が這いだしてくる。唇をなぞるザンザスの舌に、スクアーロはさきほど頬を擦りつけた時のようにおのれの舌を擦りよせて、それから上下の唇ではさんで弱く吸った。 今度はみずから唇をよせ、自分のものとは違いぽってりと肉厚なそれを舐める。 「ふ、あ…っ」 まるで蜜の味でもするかのように唇を舐め、ついばむように軽くあわせている彼の首筋をザンザスの指がツイとなぞる。銃をあつかうために固い指先に触れられて、産毛がさっと逆立った。 深く唇をあわせながら、ザンザスの指はうすっぺらい体を撫でていく。首筋に触れ、耳のうしろを通った指が前に回って喉を探る。男というよりもまだ少年でしかない体はどこかアンバランスで、ひとつでも骨を抜き取ってしまえば、ジェンガのようにばらばらと崩れてしまいそうでもあった。 ビスクドールのなめらかな白い肌とはまた違う、たとえるならば映画に出てくる吸血鬼のような、青く細い血管の透けた肌をたどると、喉仏がこりっと指先にあたる。 スクアーロは人殺しのくせに、急所である喉にザンザスの指が触れても平然としていた。ザンザスは試しに彼の首に指を回して、軽く力をこめてみる。 「は…っ」 呼吸をうばいあうようなキスで薄められていた酸素を、さらに少なくされ、絡まった舌がわななく。 けれども反応はそれだけで、彼は目蓋を開きさえしない。ザンザスはキスをしたまま、焦点のあわない近すぎる距離で彼の顔を見ていたのだけれど、閉じた目蓋がひらかれないままだったので、視線があうことはなかった。 このままもっと力をこめられても、そして目を閉じたまま殺されたとしても構わない。 まるでそう言わんばかりの態度なのだ。無関心なのでも、なげやりなのでもない。小さなころからミルクを与えられて育った愛玩動物が、腹を見せて一切を飼い主の手にゆだねているような、そんな具合である。 ロマンス イン アンバーより 「ボス、いいって。自分でできる。なぁ」 街の中心部に並ぶブランドショップでスクアーロの服を見立てたザンザスは、今度は手ずからそれを彼に着せようとする。ボタンが外れところどころ焦げた上着を脱がせ、ネクタイを解いてシャツもスラックスも靴も全部脱がせる。下着ももちろん脱がせて、替えの服の包装を開ける。下着を穿こうとしてよろけたスクアーロの肩を支え、シャツを着せて前のボタンを留めようとすると腕の中の男が身を捩るのだ。けれどザンザスは返事をしてやらなかった。呼び方が違うからだ。 「やめてくれよボス。自分でやるから」 嫌がるというよりも、どうして良いか分からないという体で後退るさまは抵抗とも呼べない。シャツのボタンをきっちり全部留めてやってネクタイを結び、ザンザスの手がスラックスに伸びる。なぜ返事をしてくれないのか分からない、そう思っているのが見て取れる表情だ。仕様のない奴だ。呆れ半分でザンザスはヒントを与えてやった。 「…鮫のくせに鳥頭なんて、冗談のつもりか?」 「あ゛、…ザンザス…自分でできるから…あんたがそんなことする必要ねぇよ」 スラックスを穿かせるために屈もうとしたザンザスの肩に、止めようとしたスクアーロの手が触れる。袖から先がない左手ではなくて、伸ばされたのは右手だ。革の手袋に包まれた指が肩を掴んで、押し留めようとする。細いストライプが斜めに入ったネクタイと光沢のあるブルーグレーのシャツが、髪にも目にもよく映えていた。目元の痣は青というよりも黒ずんできたけれど、二、三日もすれば治るだろう。そうしたらもっと色んな店を巡って、彼と自分の服を揃えよう。まるで着せ替え人形を前にした少女のように、ザンザスはスクアーロに自分が選んだ服を着せることを楽しんでいた。けれどもスクアーロはといえば、いっそ逃げ出してしまいたいのにそれもできず、ただ身を捩りザンザスを押し留めることしかできないでいたのだ。 「嫌か?」 そういえばこれを脱がせていなかった。思いながら、ザンザスは肩に添えられた手を取る。そのまま引っ張るのは簡単だったけれど、そうはせずに軽く曲げられた指先をおのれの口元へ運ぶ。まるで皮膚のようにぴったりと彼の手に合った黒い革を、前歯で軽く噛む。あまりにサイズが合っているものだから手袋だけを噛むなんて不可能で、その下の指まで噛んでしまって彼が身を強張らせるのが分かった。 「っ…別に、嫌とかそういうんじゃねぇけどよぉ…なんつーか…落ちつかねぇし。そもそも自分でできるし」 「嫌じゃないなら俺がしたって構わねぇだろ」 「う゛…そういう問題じゃねぇよ」 歯で扱くように革を手繰り寄せて、指先で余った部分を今度こそ手袋だけ噛む。まずは人差し指。それから中指、薬指と進めて最後に親指へ戻る。 「ボス…あ゛、いや、ザンザスにさせることじゃ…」 一度は間違えたが指摘する前に呼び直したのだから、まあ良いだろう。初日としては及第点だ。褒美のつもりで指先に口づけると、噛みついてもいないのにその手がびくりと大仰なほど揺れた。揺れた拍子に少しばかり伸びた爪が唇をかすめて、この時はじめてザンザスは彼の爪を整えてやらないといけない、と思ったのだった。 「ん゛…っ」 五本の指すべてにヤスリをかけ終えて、掌の側から見ても爪が見えなくなった指先を唇で挟む。爪切りで切るよりも角ができず、なめらかな断面に舌で触れてみる。思った通り、丁寧に削り磨いた爪にひっかかるところはない。それではこちらはどうか。ザンザスはもう少し深くまで指を咥えて、固い爪の表面を撫でてみた。掌に炎を灯し、更に両手で銃を構え火薬を扱うザンザスの爪よりも、長年手袋の中で過ごしてきたスクアーロの右手の爪は幾分か薄いようだった。左手の爪はたしかもっと厚みがあって、そのくせ彼はヤスリで削るなんてことはせずに爪切りでパチンと切るだけだったから、背中に回された時に角がひっかかって痛い思いをしたものだ。 「う゛ぉい、やめ…っ…」 表面を撫で、爪の生え際をツゥとなぞると口内でその指がごく軽く曲げられて唇の裏側を押す。外の風には慣れ始めていても、彼の右手はこうして触れられることには未だに慣れないらしい。口では止めろだの何だの喚くくせに、舌に触れている指先はどうかといえばまるで借りてきた猫のように大人しいのだ。強いていえば多少強引に口から引き抜こうとするくらいで、その抵抗も歯を立てれば止んでしまう。セックスの時よりもよほど初な反応がザンザスには面白く、いつも口を離す頃には散々舐められ吸われた皮膚がふやけているほどだ。爪の生え際から舌先はかすかな段差を上り、関節のみぞを横になぞる。まるで指紋を辿るかのように指の腹をまるく撫で、途中でまた爪と肌の隙間をこじ開けるかのように舌を這わせる。 「ひ…っ…ぅ…」 首筋を撫でられたか耳朶を噛まれたか、それとも下腹を引っ掻かれたかのような声を出すものだから、一体どんな顔をしているのだろうとザンザスは視線を上げてみた。 「こんなことして何が楽しいんだぁ…」 果たしてスクアーロは、ひどく情けない表情で頬をほのかに赤くしていた。いつだって勝ち気そうに吊り上がった眉が下がり、眉間には浅い皺が寄せられている。視線にだって死神と恐れられた鋭さはない。ついでにいえば腰が引けていて、手首ごと捕らえられてさえいなければ、すぐにでも逃げ出したいとばかりの体である。 「てめぇが処女みてぇな反応するからだろ」 「処女っておま…っ…」 |