戀 サンプル
「ふあ…!あ、ん゛ん、う゛あ…っ」
獲物を呑みこむ蛇のように、大口を開けて男を咥えこんだ窄まりが、腰を動かすたびに吸いついて締めつけてくる。熱くぬかるんでやわらかい粘膜の壁とは違い、またもともとそのための器官である女のものとも違って、シンプルな肉の輪の締めつけは強い。まるで縋りついて、つなぎとめようとするかのようでさえある。律動に揺さぶられながら自ら性器を弄るスクアーロを見て、ザンザスが目を細めた。
すべてを曝けだすかのように開いた足のあいだには、赤黒い肉の棒がぬぷぬぷと出入りしている。銀の髪はベッドに広く散らばって、身動きのたびに大きく揺れる。ぎらぎらと白刃のごとく光る目は、いまはただ情欲に濡れるばかりだ。乾いた自分の唇を舐めて、ザンザスは大きく腰を引く。スクアーロの声が、高く引き攣れるかのように裏返って響いた。
「ひぃ、んあ…ッは…!」
最初は拒んでいたはずの異物を、いまはみずから咥えこみたがるかのように喰らいつく窄まりが、まるでもっと多くを強請るようにひくつく。開いた足の、太ももの筋がこまかく震えて、性器はいまにも精液をこぼしそうなほど張りつめていた。手袋の黒い革も、うすい灰色と青色を一滴ずつ水に落としたような淡い色の目も、どちらも濡れててらてらと光っていた。
「ふ…、は…っ…」
雁首の段差だけがひっかかっているようなもどかしい状態に、スクアーロの吐く息にすら熱がこもっている。斜め上から見下ろしたその顔が、不意に十四歳の少年と被る。長い髪もただ熱っぽいばかりの目も、あのうすく研ぎ澄まされた刃のような少年とは似ても似つかないのに、しかしそれでも、薄情そうなうすい唇や虹彩の淡い色合い、強気な性格を表すかのように吊り上がったまなじりが、どうしても彼そのものなのだ。そうしてついこのあいだ白昼夢のように見た、十年後の彼と、同じものでもあった。
「い゛ぅ…っ!?なにすんだぁ、あ…ッ」
ならば左腕は。
思うが早いか、ザンザスの手は彼の左腕を掴んでいた。スクアーロの左腕は、手首から先が鉄の義手である。それは知っている。二日二晩にわたる剣帝テュールとの戦いの末に斬り落としたものだ。義手をつけるために、テュールと戦って斬った時よりもさらに少し手術で短くはしたものの、手首から上は彼の生身である。しかしあの、夢というよりもまるで自分ひとりきりしかいない劇場で、演劇や映画を見せられているような不思議な体験の折りに見た彼の姿は、ザンザスが知っている姿とは違った。肘の上辺りから先がないのである。
「い゛…っいてぇって、ボス…!」
肘を、二の腕を加減無しに掴まれて困惑したスクアーロが身を捩る。しかしザンザスは離そうとしない。記憶の中に、ずいぶんと短くなった、まるで食い千切られでもしたかのような左腕がよみがえる。血が流れ、服ごと無残に引き裂かれた腕の断面からは白い骨が見えていた。
「これがオレのお前とやっていくための覚悟だ」
真っ青な空と白い雲、そうして白と見まごう銀色の髪、という強すぎるコントラストにザンザスが眉を寄せるなか、スクアーロは臆面もなく言った。
バルコニーの手すりに、強い日差しがあたって白く反射し、風は夏草の匂いをのせて頬を撫でる。日差しが強いから、木陰はまるで塗りつぶしたかのように真っ暗だ。夏の太陽はまばゆく強く建物を、人を、植物たちを照らし、その分濃い影を作る。あの時に差しだされた包帯に包まれた腕よりも、いま掴んでいるこの腕よりも、未来の記憶で見た彼の腕は短かった。いまだって義手を外せば寸足らずなのに、あれでは絶対に掴むに足りない。きっとこの手の中からすり抜けてしまう。
勝手に斬ってきて覚悟だなんだと言ってきたくせに、それを断りもなく落としてくるのか。
「痛…っぅ、あ゛…っあ、ひア…ッ!」
ザンザスの手指に、熱がこもる。情欲の熱ではない。彼がてのひらにともす炎と同じ熱だ。炎こそ生まれはしないが、文字通り燃えそうに熱い手で素肌にふれられ続けて、スクアーロは悲鳴をあげる。苦しげなうめき声にかまわず強く突き上げると、白い裸体が藻掻いてのたうつ。
「あ゛…っあ、ン…ッく、う…っ」
熱いのか、痛いのか、気持ち良いのか、全部がない交ぜになってしまって、どれがどれなのかわからない。ただもう頭でなにかを考えることなどできず、与えられる痛みと快楽を受けいれるだけで精一杯だ。それだけで、気が狂ってしまいそうなほどだ。まじりあって一斉に押し寄せる刺激にかすむ視界で、自分の左腕を掴む男の肩に手を伸ばす。腕を離して欲しくて押し返そうとしているのか、それとも強すぎる刺激に溺れそうで縋っているのか、自分でもわからない。視界が揺れて、傷跡の位置が正確に見えないから、避けてさわることもできない。ただ目の前の男に、ザンザスに手を伸ばす。
「…っ…」
スクアーロの手がおのれの肩にふれたか否かというところで、いっそう深く、それこそ奥の奥まで潜りこむかのように体内を穿った。たがいの腰骨があたり、腹に濡れそぼった性器が擦れて胸が重なった。掴んだ腕からはまだ手が離せない。この腕を焼きたいのではない。ただ骨が軋んでも皮膚が爛れても、離してはいけない気がするのだ。だから離せない。
たがいの体が重なると、傷跡が擦れ、火照ったスクアーロの肌をじかに感じる。手指でふれるよりもずいぶんと熱く感じた。普段ザンザスよりも体温の低いスクアーロも、セックスとなると肌はほのかな赤みを帯びて、まるで情欲の炎に炙られているかのように体温が上がる。ザンザスがふれてさえ、熱いと思うくらいだ。しかしてのひらや指先でふれるよりも、腹や胸、なにかに触ることに慣れていない場所の方が、さらにもっと熱く感じた。火照って、わずかな汗でしっとりと湿った肌の感触を感じながら射精する。
「く…っは…」
「あ゛、ひ…ぅあ゛あッ――!!」
どくどくと、自分の中に重なった男の精液が注ぎこまれるのがわかった。腹の中を押し広げている性器が脈打ち、下腹がじわりと熱くなる。逞しく固い腹筋が、片手を押さえつけられ、もう片方の手を男の肩に置いているために自分ではふれられない性器にこすれる。しかしスクアーロを絶頂に押し上げたのは、注ぎこまれる精液の奔流でも、もちろん左腕の燃えるような痛みでもなかった。もうこれ以上奥などない場所を穿たれて、脊髄を痛いほどの快感が走り抜けるなか、彼の耳に大きく呼吸をしたザンザスの吐息がかかった。熱く、荒い吐息だ。重なった胸や腹が熱くて、たまらなくなって、性器にふれていないのに射精してしまった。射精というよりもいっそ、女の絶頂に近いかもしれない。ぞくぞくと痺れて、たっぷり数秒は身動きがとれなかった。だから絶頂の瞬間、思わずきつくしがみついてしまったザンザスの肩から、右腕をほどくこともできなかった。
スクアーロがヴァリアーを出て行ったのは、その夜の翌朝のことだった。
「…、…」
翌朝早く、ザンザスは目を覚ました。もともと睡眠時間が長い方ではない。寝つきが悪いし、眠っていてもすこしの物音で目が覚めてしまう。八年たっぷり眠らされたあとでは、特にそうだった。そもそもあまり眠る気になれないのだ。
昨夜はあのまま、起き上がるのが面倒になってシャワーも浴びずに眠ってしまったから、体中がべたべたしている。酒の臭いと青臭い精液の臭いがまざりあって、部屋の中の空気を澱ませていた。夏用の薄手の羽根毛布をめくって、彼は起きあがる。ベッドの上で、手を伸ばせば届くほどの位置でスクアーロが眠っていた。
そうか、昨晩は彼を追い出したり蹴り落としたりしていないのだ。
自分の行動のはずなのにすこしおどろいて、ザンザスは彼を見たまま、二、三度まばたきをした。髪と同じように、鴉の濡れ羽のごときつややかな黒色をしたまつげが、上下重なっては離れる。赤い目や開ききらない上目蓋には、まだすこしだけ眠気が残っている。
スクアーロは、広いベッドのザンザスが寝ていた場所とすこし距離を置いた場所で、羽根毛布の端だけを体にかけて眠っている。ザンザスが起きても起きる様子はない。華奢な訳でもないし、毛布の端に器用にくるまっている訳でもないから、長い手足や肩はほとんどすべて毛布からはみ出ていた。
「……」
毛布をすこしひっぱると、カサリと音がした。スクアーロの方を見る。彼が起きる様子は、やはりない。もうすこしひっぱって、その肩に羽根毛布をかけてやる。昨夜ザンザスが掴んだ左腕には、その痕がはっきりと残っていた。真っ赤になった皮膚のところどころが、白く剥がれかけている。
毛布をかけてからは振り返らずに、ザンザスはバスルームへ向かった。緞帳のごとく厚いカーテンのむこうは、まだ濃紺の夜に近い。東の端に淡く黄金色が滲みはじめたばかりである。
そうしてシャワーを浴びたザンザスが部屋に戻った時、そこにスクアーロの姿はなかった。