ボンゴレリングをめぐる戦いに敗れた独立暗殺部隊ヴァリアーの幹部は、飛行機での旅に耐えられるまでの治療を日本で受け、体の回復を待ってから本国へ送られ処分を受けることとなった。

彼らはそれぞれ程度の差はあれど何かしらの怪我を負っていたが、その中でも特に酷かったのが全身に火傷と凍傷を負ったXANXUSと、鮫に食われかけあわやというところで一命を取りとめたスクアーロだった。



頬をなぶる風が冷たい。この国に降り立った時から風は渇いていて木の葉は地面を覆いかさこそと死にゆく準備をすすめていたが、今や落ち葉にさえ色がない。低く垂れ込めた空は鉛の色で、遠く太陽のある場所だけがほの白く光っていた。
彼らの知らないうちに、この国には冬が来ていた。


八年前から変わらない顔触れは入院中にせよ、レヴィやマーモンのように療養を必要としないにせよ厳重な監視のもとに置かれていたが、XANXUSとスクアーロに至っては別格だった。 拘束帯はもちろんのこと、XANXUSのベッドには死ぬ気の炎を吸収する装置が取り付けられ、スクアーロは義手を外された。 元々鮫の歯に削られて破損していたが、それでもあるのと無いのとではずいぶんと違う。第一に、体のバランスが上手く取れないのだ。
私物はすべて手元から取り上げられ、部屋の外には常に人がいて銃を携帯している。着替えも入浴も逃亡と自殺を避けるために一人では許されなかった。点滴が外され自力で食事ができるようになっても金属の食器は与えられず、フォークやナイフ、スプーンまで武器になりえるものはすべてプラスチック製で揃えられた。
白く清潔な病室は、あるいは明るい牢獄であった。



車輪がちいさな土くれを踏んで車椅子の進路がぶれる。それをスクアーロは右手と左の腕で軌道修正した。
不具な手で回す車輪は決して速くは進まないが、その隣を文句もこぼさずにXANXUSは歩く。歩調を合わせているのではなく、それが今の彼の歩くスピードなのかも知れない。
病院のすぐ傍にある公園に二人は来ていた。遊具もない、ただ土と芝生と木立があるばかりの場所だ。
十数歩後ろには銃を持った見張りが居る。

すっかりと葉を落としたナラの木の下に車椅子を寄せると車輪にロックをかける。小鳥がつまみでもしたのか足元に落ちている実は少ないが、下ろした靴底に小さな丸みを感じた。つるつるとしたそれごと地面を踏みしめて右の手を大木のささくれ立った表皮に、包帯を巻かれた左腕の丸い先を車椅子の手すりに付いて立ち上がるとそれだけで筋が震えた。 あと5センチずれていたら腱が切れていた、とディーノから聞かされた脚はベッドと車椅子を往復する生活ですっかり筋が萎え、一人で歩くことさえ満足にできなくなっていた。

XANXUSは大樹と車椅子を頼りに体を支えたままのスクアーロの前に手を差し出した。指先にも引き攣れた火傷の跡がある。
手袋を着けていない青い血管の浮いた手がそれに重ねられる。冷たい手だ。XANXUSは思う。
身を切るような風が二人の頬を叩く。
色のない空。並ぶ裸木。冬は停滞の季節だ。
あらゆるものが一度死に、春の芽吹きへ備えている。


靴底がどんぐりを砕いて、枯れた芝生を踏みしめた。繋いだ手だけが風に晒されずに、互いの体温を伝えている。