あのひとのことを聞きたいの?
まろい身体の女が瞬く。
豊かな曲線を描くミルク色の肌に、背中を流れる、宗教画の天使のようにカールした金髪。
花のかんばせ。
瞳の色はしっとりと濡れたマスカットグリーンだ。
そうねえ…
女は娼婦だった。娼婦といっても街中で立って客を引き、二束三文で身体を売るようなたぐいではない。
ハープも弾ければダンスの相手も出来る、会食に連れて行くのにも差し支えない気品をもった、高級娼婦だ。
お客としては良いひとだったわよ。
お金払いは良いし、ちゃんとお客と娼婦って立場を分かってる。
セックスもノーマルだし、マフィオソなのは知ってたけど、柄だって悪くなかったわ。
ああ、ひとつだけ面白い話があるわ。
すこし前の話なんだけど…夜中にコールがあって、いつものお屋敷に呼ばれたの。
家の前にコンチネンタルが来るからそれに乗って…あそこに行くときは山に入る前に目隠しをされるのよ。迎えに来る人も黒い服を来てマスクなんかつけて、初めは怖かったけど、でもじきに慣れたわ。
目隠しを取ったらそこがお屋敷。暗い山の中にお城みたいに建っていてね。
それであのひとの部屋に通されて、寝たわ。ああ、もちろん寝るってセックスよ。あらごめんなさい、バカにした訳じゃないわ。
終わってあのひとがベッドから出て、わたしも体を起こした時気付いたの。シーツの上に、髪の毛が落ちてることにね。
わたしのじゃないわ。細くてまっすぐで、わたしよりも長い銀髪だった。
それでわたしはあのひとにその髪を摘んで見せながら、「あら、本当のお気に入りはこの人だったの?」って聞いたの。もちろん冗談のつもりだったわ。
だってその頃はわたし以外にあのひとに呼ばれたって話は聞かなかったし…プライバシー?
女の子同士の他愛ないおしゃべりよ。それに、あのお屋敷で女の人なんてほとんど見なかったし。
でもそうしたらあのひと、その髪を見て目を見開いて、あの真っ赤な目をよ。眉を寄せて唇をむずむずさせて、ほっぺたも少し赤くして…本当におかしな顔だったわ。何年かの付き合いがあったけど、あのひとのあんな顔、私初めて見たわ。
いつもはむすっとしてばかりだったもの。
あのひとは何も言わなかったけど、これは図星ねって思ったわ。女の勘なんてものじゃない、あのひとの顔が何よりの証拠よ。
それからすこし経った頃ね、わたしが最後に呼ばれたのは。
コンチネンタルじゃなくてランボルギーニが止まったから、もしかしてあのひとの私用の車だったのかしら?
ホテルに食事に行って…いいえ、その日は寝なかったわ。だからお金は貰わないつもりだったんだけど、だってそうじゃない?
わたしは娼婦だもの。セックスか、パーティでのペアになる時しかお金は貰わないわ。
でもあの人はいつもより多いお金をくれたの。だからわたしはカードを返した。いつもは現金なんて無粋な真似しないから…手切れ金だって、分かったのよ。
だから最後に、「お幸せに」って言ってやったわ。だってそうとしか考えられなかったんだもの。
あのひと、また変な顔してたわ。今思うとあの顔は照れてる顔だったのね、きっと。
さあ、これでわたしの話はおしまい。ただの思い出話よ。
…ところで、わたしがあのまま呼ばれないってことは、あのひとあの時の銀髪の人とうまくいってるのかしらねえ?