つきあっている彼女と夜の浜辺に行った。春の海は冷たい風と生暖かい風の両方が吹く。ワタシは冷たい風を受けることにした。彼女に風邪を引かすわけにはいかない。
 空に星が瞬く。波が幾重にも反射させるので、浜辺は明るい。手が届きそう、と首を真上に向けて彼女が笑う。コーデュロイのオーバーから腕が真っ直ぐに伸びる。
「取りましょうか?」
 ワタシが言うと彼女は一瞬目を丸くし、それから小さく笑って「お願い」とささやいた。
 星の取り方はコツがいる。子供のころ近所に住んでいた二才上の幼なじみが星取りが上手かった。父の仕事の都合でワタシが引っ越すことになったとき、とっておきだからな、と念押しされて、星の取り方を教えてもらった。
 目星をつけた星から目をそらさずタイミングを計る。腕を伸ばし瞬きがいちばん明るいときに、クイと手首の捻りを効かせるのだ。手応えあり。
「どうぞ」
 朱金色のかけらをうやうやしく彼女に手渡す。もちろん星のすべてではない。それは手にもポケットにも大きすぎる。庭にも置いておけない。かけらは最初はいびつだが、少しするうちに絵記号の星のように五つの角をピンと張りはじめる。小さいけれどもこれで立派な星なのだ。
 彼女ははしゃいで、すごい、と連発する。丸くした両手の中で星は鼓動のように規則的に瞬く。
「もうひとついりますか?」
 顔を上げ目を輝かすが、すぐに彼女は首を横に振った。理由をたずねるようにワタシが首を傾げると、部屋狭いもん、と残念そうにつぶやいた。
 ワタシはまた天頂を向き、手を高く掲げる。彼女が腕を掴み、いいのにホントにいいのに、と遠慮する。
「自分用です。今日の記念に」
 彼女の手がゆるんだ瞬間、青白い星をワタシは掴んだ。さっきよりも少し大きい。
 ポケットの隙間から、星の光が洩れる。彼女には朱金色の、ワタシには青白色の、灯台のように光は強く弱くを繰りかえす。
 浜辺を手をつないで歩きながら、ワタシたちは色々なことを話をした。砂を踏む音が、さくさくと耳に心地よい。いつか星を隣同士にならべて置きたいとワタシは思った。彼女とワタシが、いずれふたりで決めた家で愛おしく暮らしはじめる日に。