インターネット上に流出した県警の捜査資料に絡んで起されていた住民監査請求が棄却されたことを受け、県内の弁護士らは、今月20日、松山地方裁判所に
新たな住民訴訟を起こすことを決めた。この問題は、ファイル交換ソフト「ウィニー」を通じて、県警捜査一課の現職警部のパソコンから流出した大量の
捜査資料の中に、事実と異なる捜査謝礼の支払いを記した資料があったもの。県内の弁護士グループらが、この資料を基に1999年から2005年までの間に
県警捜査一課が使った捜査報償費の監査を求めていたが、県監査委員は「違法な支出を裏付ける証拠はない」として請求を棄却した。
これを受け、弁護士グループら17人は、きょうまでに捜査一課が2001年度と2002年度に情報提供の謝礼として支出したとされるおよそ17万円が、違法な
支出だったとして、加戸知事と粟野県警本部長を相手取り、当時の捜査一課の責任者に賠償を命じるよう求める訴えを、今月20日松山地裁に起こすことを決めた。
県警の捜査費に関する行政訴訟はこれで4つ目となる。
2001年度の愛媛県警の捜査費用が、偽造された領収書によって不正に支出されていることが、テレビ愛媛が入手した警察の内部資料と関係者の証言で
明らかになった。領収書の偽造が確認されたのは9件、5万6400円分の捜査費で、当時担当した元警察職員は、1つの警察署で年間数百万円の捜査費用が
不正に支出され、警察の裏金としてプールされていたと証言している。愛媛県の警察署内部で偽造されていたのは、捜査協力者に謝礼として支払ったとされる
手書きの領収書と、捜査に使った飲食店の店の名前が入った領収書。テレビ愛媛が入手した内部資料では、平成14年1月だけで8人の捜査協力者に、謝礼などと
して2000円から4万円を支払ったとされている。このうち実在する2人の男性に取材したところ「協力したこともないし、現金をもらったことなどない」
との返事。警察から現金は受け取っておらず、警察の領収書が偽造されていたことが明らかになった。
さらに、捜査で使ったとする飲食店の領収書も、実際の店で発行する領収書とは明らかに様式が違っており、店側も、本物の領収書ではないと断言している。
しかもこの領収書の作成には、店名が入ったニセのゴム印が使われ、警察署内で日常的に領収書が偽造されていた疑いが強まっている。全国の警察で捜査費の
不正流用が相次ぐ中、飲食店の偽造領収書や店のゴム印の存在が明らかになったのは、初めてのケースだ。元警察職員は、警察が偽造印を押した領収書の束を
構えていると話す。元職員は、不正に支出された捜査費用は1つの警察署で年間数百万円にのぼるとしていて、組織的な捜査費不正流用の疑いが浮上している。
この疑惑について県警の大石亘総務室長は、テレビ愛媛の取材に対し「不正はないと思う。事実であれば、県民が納得できる調査を始めたい」とコメントしている。
架空の捜査協力者・・・報償費偽造疑惑 入手した警察の内部資料によると、平成14年1月、8人に、捜査協力の謝礼として現金2000円から4万円が
支払われたとされている。その中の1人、3000円の報償費を受け取ったとされる県内在住の男性Aさん(80歳代)を訪ねた。
しかし、Aさんは警察の捜査に協力したことはなく、実際に住所と名前を書いてもらったところ、領収書に残された住所や名前と明らかに筆跡が違っていた。
同じく平成14年に、捜査協力者として4万円を受け取ったとされるBさんを訪ねた。親族に確認したところ、領収書が作成される7年も前に、Bさんは
死亡していた。元職員は、捜査協力者の名前は電話帳などから架空に作り出され、署内で保管されている印鑑200〜500本を使って、日常的に
偽造領収書がつくられていたと証言する。 また、県警本部から各署に配分される捜査費のほとんどは、偽造領収書で一旦プールし、署長らによって
配分されるという。捜査員の夜食や慰労など、捜査の為に使われたものもあるというが、大半は署の幹部が私的に流用していたと指摘している。
当日の動き 報道受け 県警「不正なし」から「自信がない」
テレビ愛媛の取材で明らかとなった捜査費不正流用疑惑を受け、県警は「無いと断言したいが、現在では自信が無い」として2001年度の会計書類について
内部調査に乗り出した。内部調査の対象は、テレビ愛媛が疑惑として放送した、2001年度に県警が支出したすべての警察署や県警本部の捜査に関わる会計資料。
これまで、県警はことし3月の県議会 警察経済委員会でも「不正流用は無く、調査する考えは無い」と明言していたが、県警本部の大石亘総務室長はきょう午後
「不正が無いと言い切る自信はない」として事実確認に乗りだした。今後は、県民が納得できるよう調査結果を明らかにしていきたいとコメントしている。
ゴム印までも偽造 不正流用の手口とは 捜査費用の不正支出は、実在する飲食店のゴム印まで偽造していたという、大胆な手口によって行われていた。
捜査費を裏金として流用するため、愛媛県警のある警察署では、驚くことに、実在する飲食店の名前が入ったゴム印を警察署内に保管していたという。
割烹料理店の住所と店名が書かれたゴム印2つ。実在する2つの飲食店のゴム印が、平成14年当時、県内の警察署に保管されていたという。
元警察職員は、当時使っていた、店名のゴム印が押されただけの領収書を、私たちに見せてくれた。当時警察署内で保管していた3冊の領収書の束からは
150枚以上の領収書がすでに切り取られていて、偽造領収書が使用された形跡が生々しく残っている。テレビ愛媛では、平成14年1月当時、このゴム印の
領収書で名前が使われた飲食店2軒を訪ね、警察の内部資料にある領収書のコピーを見せた。捜査費を請求する書類に添付された割烹料理店の領収書のコピーは
警察で保管していたゴム印で作ったもので、申請書類には捜査費用を請求した担当刑事の名前が直筆で記されている。
店が実際に発行していた領収書と比較してみると店の名前と住所、電話番号は同じだが、明らかに違うものだった。元職員の証言では、捜査費の不正支出を
直接指示するのは副署長で、指示を受けた各課ごとに何枚もの領収書を捻出するが、領収書が足りない時に、会計課にニセの領収書をもらいにくるという。
そして、偽造領収書で支出された捜査費は、現金のまま、副署長が警察の裏金として通常の月は40万ぐらい、年末、年度末になると100万近く
プールしていた証言する。元職員が会計処理にかかわった警察署では、平成14年当時、年間400万円から500万円の捜査費ほとんどが、裏金として
プールされていたという。しかも、裏金づくりは、県内にある19のすべての警察署や捜査に関わる県警本部のすべての課で行われていたと指摘している。
この裏金は一体何に使われていたのか。関係者の話では裏金の一部は各課に配分され、捜査員の慰労や、張り込みの夜食など一線の捜査員のために
使われたものもあるというが、大半の現金は、署長ら一部の幹部の間で私的に流用されていた疑いが強いと指摘している。
県警 事実確認のため調査班編制 愛媛県警察本部は、テレビ愛媛の捜査費不正流用疑惑報道に対し、事実確認のための調査班を設置した。
テレビ愛媛の取材により浮上している、2001年度の県警の捜査費や報償費の一部、9件・5万6400円分が領収書の偽造により不正流用疑惑について
県警では報道内容に対し事実確認をするために調査班を設置し、きょうから調査を開始した。調査班は、大石 亘総務室長を責任者とし、会計課、監査室、総務課の
警察官と職員合わせて12人で構成されている。きょうの会見で、大石総務室長は「疑惑があった以上、あるかもしれないと調べてみる必要がある」と述べた。
調査結果を出す時期は未定で、県民への報告は結果の内容によるとしている。一方、県警の粟野友介本部長はテレビ愛媛の取材に対し
ノーコメントの姿勢をとっている。加戸知事は、テレビ愛媛の取材に対し、県警へ「捜査費はオープンにできないが、悪用は許されることではない。
襟を正してほしい」と早急な疑惑解明を求めた。今回の疑惑について小野清子国家公安委員長は、けさの閣議後の記者会見で
「現時点で報道内容しか掌握していないが、愛媛県警からの事実関係の報告を受け、検証しながら対応していななければならない」と述べた。
警察の「偽名領収証」一斉情報公開請求へ 全国のオンブズマン組織では、愛媛県警でも、今回問題になっている捜査費の「偽名領収書」について
全国一斉の情報公開請求を今月7日に行うことを、きょう、発表した。全国市民オンブズマン連絡会議によると、今月7日に全国の都道府県警に対し一斉に
情報公開請求するのは、捜査費の領収書のうち「警察が偽名であると認識しているもの」などについて。連絡会議では「偽名領収書は不正支出疑惑の巣窟」
だとして今回の一斉請求に踏みきるもので、オンブズえひめでも今月7日に情報公開請求を行いたいとしている。
組織ぐるみの不正と隠ぺい工作? 事件捜査などに必要な捜査費。これはすべて私たち国民の税金でまかなわれている。
捜査費は、国の予算と県の予算から成り立っていて、今回疑惑が浮かび上がった2001年度には、愛媛県警全体で国費7280万円、県費4730万円の
あわせて1億2000万円の捜査費が支出されている。この中には捜査員の人件費や、出張旅費などは含まれず、ほとんどが情報提供者への謝礼や
事件捜査の諸費用に使われている。捜査費は県内19警察署と本部の捜査担当課に配分される。2001年度の捜査費は、小さい署で年間100万円前後
大きな署では年間1000万円を越えていた。各警察署では副署長が責任者となり、刑事課や生活安全課、警備課などに捜査費が渡され、現場の捜査に
使われることになっている。しかし、元職員は、各課に渡った捜査費が適正に執行されることはほとんどなかったと証言する。
こうして浮かした捜査費の一部が、副署長の手元に戻され、裏金としてプールし、この中から幹部に毎月自由に使える金が渡っていたという。
捜査費の内容は、「捜査の秘匿性」という壁に阻まれ、外部からチェックすることは容易ではない。こうした中、警察が神経をとがらせるのが
会計検査院の調査だという。元職員は、会計検査で不正が発覚しないよう、当時、県警本部がレジメを作っていて、その中には会計検査院からの質問例と回答例が
細かく書かれていたと話した。こうした不正隠しマニュアルの存在について、県警本部会計課は、法律に基づく会計処理のガイドラインはあるが
指摘されるようなものはないと否定している。捜査費の不正支出による裏金づくりは、情報公開制度がスタートしたおととしを境に変化しているという。
情報公開制度では、2002年度以降の警察資料が対象となるため、数年前から、捜査費の不正支出を減らそうという動きが出てきたと、元職員は指摘する。
県警の捜査費を見てみると、W杯の警備があった2002年度を除いて、減少傾向にある。また、2000年度までは年間予算のほぼ全額を使っていたのが
2001年度以降は余らせる形となっている。元職員が今回告発した捜査費不正流用疑惑は3年前のもので、現在も不正が続いているかどうかはわからない。
この元職員が指摘する「長年続いた不正のシステム」を解明できるかどうかは、県警自らの姿勢にかかっている。
全国各地で不正疑惑追及の動き 警察の裏金疑惑は愛媛県だけではない。現在も全国10都道県の警察で疑惑が浮上し、調査が続けられている。
北海道の捜査費不正流用疑惑の発覚以降、静岡、福岡の3つの県警が不正に支出があったことを認めているほか、2年前には香川でも不正があったことを認めている。
また、宮城や高知、熊本など5つの県警と警視庁も不正な支出があるとして疑惑が持ち上がっている。
北海道警 北海道警の不正疑惑は、警察の内部文書の発覚に端を発した。捜査への協力者に謝礼として支払われたはずの報償費を、本人が「受け取っていない」
ことが判明。テレビ愛媛の取材で明らかとなった愛媛県警のケースと同じだった。発覚当初、道警は全面否定したが、道警の元最高幹部が、テレビカメラの前で
裏金づくりが行われていた実態を、赤裸々に証言した。これをうけ、しぶしぶ内部調査を始めた道警。結果、2つの警察署で1995年から2000年の間に
捜査費・報償費としておよそ376万円が、不正に支出されていたことがわかり、このうち225万円余りが、捜査活動以外に使用されていた。
道警本部長はこの不正経理を認め、先月の道議会総務委員会で報告、謝罪した。北海道監査委員会は道警に対し、不正支出の変換を求める異例の勧告を出した。
不正経理は他にもあったのではとの疑念が残ったが、道議会は、地方自治法にもとづく百条委員会の設置を見送っている。
福岡県警 福岡県警では、今年3月、捜査費の不正流用疑惑が浮上した。「捜査上の秘密」という壁に閉ざされたカラクリを生々しく証言したのは、元警部。
詳細な内部資料を手に「裏金づくりは会計検査室に置かれたマニュアルで学んだ」と告発した。この元警部は、銃器対策課で毎月多くの架空の捜査協力者を
でっち上げ、謝礼を支払っていたことにしていたと証言。そして、1995年から1999年までの5年間に、6000万円以上の捜査費が裏金として使われ
そのほとんどが、幹部の個人的な支出や接待費用にあてられていたと語った。当初全面否定していた福岡県警も、4月、一部不正な流用があったと
裏金づくりの事実を認めた。警察の不正疑惑が浮上する各地では、市民オンブズマンを中心に、住民監査請求が行われている。
宮城県では、知事が、警察の内部資料の閲覧を求め、県警との間で対立が表面化するなど、裏金問題に注目が集まっている。
警察の内部資料は「捜査の秘匿性」を理由にほとんど公開されない。今回の元県警職員の証言に、オンブズえひめも大きな関心を示している。
今月7日には、捜査協力者の保護を理由に偽名で書かれた領収書について、全国一斉に情報公開請求が行われることになっている。
テレビ愛媛が指摘した愛媛県警の捜査費不正流用疑惑を受けて、県公安委員会では、きょう、臨時の委員会を開いた。公安委員長は、事実関係の調査や
調査結果の報告などを県警本部長に指示した。臨時の県公安委員会は、きょう午前10時から非公開で開かれ、宮本 一成委員長ら委員と県警本部から粟野友介
本部長らが出席した。公安委員会によると、まず、県警側からこれまでの不正流用疑惑の報道内容や、県警が設置した調査班などについて報告があり
これを受け宮本委員長は、事実関係について住民の視点に立った調査を行うこと、県警の調査結果を公安委員会へ報告すること、さらに、今回の疑惑について
県民への説明責任を果たすことの3点を粟野本部長に指示。これに対し、粟野本部長は「公安委員会の管理に服しながらしっかりと調査し、結果を報告するなど
県民の信頼の確保に努める」と答えたという。また席上、宮本委員長は、今回の疑惑について「驚いている」と感想を述べる一方で
疑惑が晴れないことで一線の警察官の士気の低下を心配していたという。