[ 【球炎】不動のエース、チーム鼓舞 ] エースには宿命がある。双方が落とせない一戦を託されるから、必然的に相手のエース級との投げ合いが増える。
前田健太が援護の少なさに耐え、逆に味方を鼓舞する投球で積み重ねた9勝目。宿命を背負う分、その価値は2年前の同じ9勝をはるかにしのぐ。直球の走り、
変化球の切れともにいまひとつ。上り調子のヤクルト打線に加え、蒸し暑さによる不快指数の高さも難敵となった。そんな過酷な状況下で、6回まで最少得点を死守。
「我慢比べ」で先に音を上げたのは、相手のエースだった。この日の石川に加え、吉見(中日)ランドルフ(横浜)ダルビッシュ(日本ハム)に成瀬(ロッテ)…。
9勝のうちの実に7勝を、各球団が誇る開幕投手との投げ合いでもぎ取った。「マエケンはオレよりもすごいよ」。かつてエースの宿命に苦闘した黒田(ドジャース)が、
思わずこう漏らしたとも伝え聞く。振り返れば、前田健太は開幕前から「1−0のスコアで勝てる投手でありたい」と繰り返してきた。躍進の源流にあるのは、
自ら進んで宿命を受け入れる精神力だろう。不動のエースの活躍が、広島に今季最高の勢いをもたらした。(加納優)