改札口を潜ると、一人の少年がプラツトホオムの椅子に腰掛けて居た。
夜半十二時を過ぎたプラツトホオムには彼以外誰も居ない。
年端もいかない顔立ちと良い、規則正しく着せられた上品な上着と良い、
はっきり云ってこの時刻にふらふらして居るやうな少年では無い。

何も云はずに静かに彼の横に腰掛けた。
良く見ると、少年の口には何かが含まれて居る。
ちらちらと唇から覗く「其れ」は、真っ白な色をして居る。
匂いがするでも無い「其れ」が一体何なのか、何故だかとても気に掛かった。
「やあ、君は何を食べて居るの」
我慢出来ずに私は彼に声を掛けた。
少年はゆっくりと此方を向き、答へた。
「骨だよ」

からからと舌で嘗め回す白い「其れ」は、彼の大切な骨だと云ふ。

「…如何して、骨など舐めて居るのかね」
「壱つになる為だよ」

「何と」
「御母さんと」

彼は笑って居た。

「御母さんは死ぬ時にこう云ったんだ。
『私が死んだら、其の骨は埋めないで頂戴。骨は、貴方の身体に還して。』
だから僕、御母さんを僕の身体に還しているんだよ。
御母さんから生まれたこの身体に、御母さんを。
こうすれば、御母さんと僕はずっと壱つなんだよ。」

納得のいかない発言に私は幾らかどもったが、
直に彼に云ひ返した。

「本当に、壱つになれるのかね」
「本当さ。
きっと僕は、僕の子供にも同じ事を云うと思うよ。
どんなに早く僕が死んでしまったとしても、
こうすれば僕は僕の子供の中でずっと生き続ける事が出来るでしょう?」

少年の目は、とても綺麗だった。
私は、何も云う事は出来なかった。

プラツトホオムに電車が遣って来た。
鉄道線路を渡る賑やかな電車の音で、私はふと自分を取り戻した。

駅に到着する電車を見詰めて居ると、駅員が私に声を掛けた。
「御客さん、此れ、お忘れにならない様にして下さいね」
さう言って渡されたのは、小さな木箱であった。
蓋を開けると、真っ白で小さな骨が仕舞われて居る。

私は笑って駅員に其れを返して云った。
「此れは私のではなく、彼の、」
さう云って右を向いた私の横には、彼はもう居なかった。
駅員は不思議さうに私の顔を見た。
「御客さん、先程からずっと独りだったじゃあ在りませんか。
酔ってらっしゃるんでしょう、夢を見たんですよ。」

駅員は笑って居た。

私は、
「そうか」とだけ呟き、
「すまないね」と、駅員から箱をもう一度受け取った。
そして私は箱を開けて、幾らか有るうちの骨の一つを唇に押し込んだ。

其の箱には、亡くなった父の名がしっかりと刻まれて居た。


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