降り積もった雪は総てを白く染め上げ、何もかもを呑み込んだ。
白い世界には何の音も無く、静かに雪だけが降り積もっていくだけだった。
吐く吐息も、冷ややかな水蒸気となり天へとのぼってゆく。
静寂に呑み込まれそうになりながら、一人の紳士が雪に足跡を残すように雪道をゆく。
肩にも帽子にも真っ白な雪が積もり、身を切るような寒さに震えながら、紳士は家への帰路を急いでいるのだ。
忙しなく足を運ぶ紳士の目に、ふと壱つの灯が飛び込んできた。
外套の中に隠した顔を擡げ、男は灯をはっきりと確認した。
少し離れた所に、弐つの小さな灯が燈されている。
『何処かの家の灯であろうか』と暫く灯を見つめていると、
男が二人、共に灯の点いた行燈をもって此方へと向かってくるのが見えた。
『行燈とは珍しい』
しげしげと行燈を眺めていると、向かって右側の男が紳士に向かって声をかけた。
「花嫁が通ります。路を開けて下さい。」
『花嫁?こんな日にか?』
紳士は不思議に思った。
「こんな雪の日の夜更けに婚礼など聞いた事もない。いったい何方なのですか。」
紳士の言葉には耳も貸さず、今度は左側の男が口を開く。
「花嫁が通ります。路を開けて下さい。」
隣の男と一言一句同じ台詞をはいた男の顔は、右の男と同じ顔をしていた。
刹那、『双子なのだろうか』とも考えた。
しかし、それにしてもあまりに男達は似すぎている。
ぞくりと、気味の悪さを感じた。
「わかった。退こう。其れでいいんだろう。」
紳士は男達に従い、路の横へと逸れた。
それを確認した男達は、また行燈を提げて雪道を歩いていった。
半強制的に移動させられたことから、紳士の疑問は深まるばかりであった。
『駄目だ。気になって仕方が無い』
紳士は耐えきれず、来た路を戻る為駆け出した。
もと居た路に戻りついた紳士は、はっきりとその花嫁行列を確認した。
白い世界に響き渡る鈴の音と、白無垢に身を包んだ花嫁は、この世のものとは思えぬほど美しかった。
雪に見劣りせぬほどに白く滑らかな肌には真っ赤な紅が映え、また其の眼は何もかもを見据えたような黒く深いものであった。
ふと、花嫁と目が合った。
花嫁は、静かに笑みを浮かべ、柔らかに会釈した。
紳士はただ呆然と、花嫁行列を見送る事しか出来なかった。
ぼんやりと路を行く紳士の眼にまた、灯がとまった。
しかしそれは、婚礼の灯ではなく、通夜の灯であった。
その家では今夜、若い娘が一人、亡くなったそうなのだ。
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