無音




無音が響く。

身体中にじんわりと伝わっていく。

じわじわと、身体が腐食する。

指の先から乗っ取られてゆく身体は最早、自分の物ではない。

無音そのものである。



この感覚を何かで表すとすれば、其れは熱の伝わる様子と酷似しているだろう。

バスタブに浸かっている時に麻痺状態を作り出し、じわじわと熱を伝える湯の様に其れは私を支配してゆくのだ。



眼を開いても何も見えない。

瞼を閉じても見えない。

瞼の裏側でさえ見ることが出来ない。

其れはむしろ、見えないとは云わないのかもしれない。



無音は総てを奪う。

聴覚だけでなく、四肢総てを、だ。

自分の生きている音さえも聞き取る事の出来ない状態はもう、死んでいるのと何も変わらない。

意識だけが真っ白な世界で取り残されたのだ。

身体が無くても永遠に続いていく意識の中で私がはっきりと確認できる事は、 確かに其処に無音が存在する事だけなのだろう。