少年の海












砂が浜辺を鳴す音を聞いている。

少年がただ、海に向かっている様子が見える。

視線は決して揺ぎ無く、ただ只管に、黒い、闇にも似た夜の海に向かっている。

陽は、そんな少年を、食い入るように見詰めていた。





刹那、風がうなりをあげて吹き抜けていった。

陽の真白なスカートが風に靡いて、ばたばたと酷い音を立てた。

乱れた髪が顔に当たって、陽は目を閉じた。





「よう?」

声がした。

先程まで後姿しか見えなかった少年が、此方を向いていた。

目は少し腫れて、赤い色を帯びていた。





「せつ」

陽も、少年の名を呼んだ。

長い髪は、まだ風に流されていたから、

陽は、髪を右手で抑えて雪の傍までゆっくりと歩いていった。

濡れた砂浜は、陽が歩く度に、「きゅっ、」と音を立てた。





「また泣いていたのね」

雪の頬には、まだ乾ききらない涙の後がくっきりと残っていた。

陽は、そっと雪の傍へと腰掛ける。

雪は何も答えずに、首を垂れた。





おおん、と獣が啼く様な音を立てて波がうねる。

黒い海が、波を寄越しては呑み込んでいくのが見える。

月の無い、こんな夜は、雪は必ず此処へやってくる。





「泣いているのは僕ぢゃあない」

ぽつりと、雪はそう云って両手で両の耳を塞いだ。

「泣いているのは、僕の母さんだ」





悲鳴のような雄叫びが聞こえる。

海が鳴っている。

何かを呑み込むまで止まらない、悲痛な、叫び声が。





「僕を、迎えに来るのでしょう、」

雪もまた、涙を流す。



「おかあさん」







波が鳴る。

風が髪を泳がせる。

空が暗闇を吐き出して、もう目の前すら確かではない。





雪は泣く。

波の音に添うように。

波は飲む。

そんな雪の声を。





波の向こう、妣が国。





波は、生み出だした子供を呼んで、

いつまでも、いつまでも泣いていた。