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「見て」 坂道の途中で、少年は足を止めた。 振り向くと、一緒に歩いていたはずの少女が 自分より少し後ろのあたりでじっと、 太陽に白く反射した地面を見つめている。 「何」 照る太陽の日差しに目を細めながら、雪は陽に尋ねた。 「死体」 ぽつ、と陽が返事を返す。 「……死体……」 反復するように、雪も云った。 二人の目の先に写る死体は、 ほんの昨日まで羽ばたいていた翅をしんと閉じ、ぴくりとも動かなかった。 「アゲハ蝶、かな」 雪が、そっとしゃがんで触れた。 人差し指で、つ、とその翅の上をなぞる。 指の先に、鱗粉が少しついて、 それは雪の指できらきらと光った。 陽はその様子を只黙って見ていた。 そして、ふと気がついた様に声を上げる。 「あ」 陽の声に、雪がまた声の方を見る。 その先には、 白い道の上に切り目を入れるように列を成す蟻の姿が見える。 「葬列、だわ」 黒い群れが、ゆっくりと蝶の元へと向かってくる。 眩しい程の白い地面に、真っ黒な線を引くように。 「迎えにきたのね」 「……そうかな」 「そうよ」 「……捕食だろう、食べるのさ」 「そうね、きっと食べるのよ。 でもね、雪。 あの蝶々は食べられる事によって昇華されるの。 蟻の生きる糧になる、それはあの蝶にとって不幸せな事かしら? 死んでしまった身体は、もうあの蝶には必要ないでしょう。 なら、その身体を幾匹もの蟻が生を永らえるのに使うのは とても合理的だと思うわ。 人間のように死んでも灰になるだけなんていうのは 勿体無いし、自然の摂理に反している気がする」 日光の熱がじりじりと頭を焦がす。 少女の白いワンピースと、黒く長い髪。 少年の白い開襟シャツと、短く整えられた黒髪。 横たわる白いアスファルトの道と、黒い葬列の群れ。 相反する黒と白が、 暑さでぼやけている視界をはっきりと現実に連れ戻す。 「……行こう、陽」 少年が少女の手を引く。 少女は名残を惜しむように、運ばれて揺れる美しい翅を見つめる。 「さようなら、……おやすみなさい、蝶々さん」 ぽつりと呟き、少女は少年の方を向いて笑った。 「ね、雪。人間って、やっぱり愚かだと思うわ」 |