〜 あったかいのがいいよね? 〜
この街の秋はとても短いです。
公園に植えてある銀杏の樹もわずかな風にはらはらと葉を落としています。
そんな公園の片隅にあるベンチで私…天野美汐…はとある人を待っています。
しかしですね。
待ち合わせの時間はとうに過ぎています。
もうかれこれ30分近くになるでしょうか…。
夕暮れで赤く染まっていた空も今では青から黒へと変わっています。
それにだんだんと寒くなってきました。
女の子をこんなに待たせるなんて人として不出来ですよ?
それでも待っているのは惚れた弱みとでもいうのでしょうか…。
私は編んでいるマフラーの手を止めてそっと広げてみました。
「思ったより出来ましたね」
一目一目私の想いがこもったマフラーです。
誰のために…なんて恥ずかしくていえるはずありませんよ。
「何が出来たんだ?」
「っ!!」
…と、突然の声に私はさっとマフラーを隠しました。
私の待ち人…相沢祐一さん…は遅れてきたことを全く気にする様子もなく話し掛けてきました。
相変わらず神出鬼没の人ですね、祐一さんは。
「……なんでもないですっ」
「そうか?気になるなぁ」
「そ、そんなことはどうでもいいのですっ。それよりも…」
「それよりも?」
「祐一さん、私に言うことはありませんか?」
「言うこと…え〜っと…なんだっけ?」
「……私は30分以上待たされましたよ」
「あ〜、そのことか…遅れてすまん」
「それだけですかっ!」
「だから悪かったって」
「長時間待たされて謝罪がそれだけなんて…人として不出来でしょう…」
「そんなに怒るなって」
「だって…今日は私の…」
そうなのです。今日は私の誕生日。
昼休みに呼び出されて「待っててくれ」なんて言われたら…。
き、期待しちゃうじゃないですか。
私だって普通の女の子なんですよ?
「そうそう、遅れたお詫びに美汐にプレゼントがあるんだ」
「そんな…もので誤魔化そうなんてダメですよ」
「まあそういうなって。とりあえず立ってくれるか?」
「え、えっと…はい。それで?」
「ちょっと上を向いて目をつぶってくれると嬉しい」
「え?」
「ほら、早く早く」
そ、そんな…急展開です!
それは…その…えっと…。
祐一さんがくれるのは…。
キ、キスということでしょうか!?
私にも心の準備と言うものが…。
あああ…もう頭の中がパニック状態です!
私は急かされるままにそっと目を閉じました。
どきどきどきどきどきどきどきどき
「それじゃあ…いいか?」
「は、はい…」
そして…。
私の唇にそっと暖かいものが触れました…。
それはとっても暖かく…。
でもちょっとかさかさして…。
そしてお芋のいい匂いが…。
……って!!!
「ゆ、祐一さんっ!!!」
「ははは、ほらほっかほかの焼きいもだぞ」
「だからって人の顔に袋を当てないでください!」
「美汐にこの暖かさをだな…」
「しかも何で目をつぶらなきゃいけないんですかっ」
「美味しい匂いを堪能してほしくてだな…」
もう信じられません。
一人でドキドキしていた私はなんだったのでしょう。
期待していた私がバカみたいじゃないですか。
なんだか悲しくて涙が出てしまいそうです。
「ほら、一緒に食べようぜ」
しかも祐一さんはそんなこと気にもせずに…。
こういう人だとはわかっていました。
でも…。
「い、いりませんっ」
「そんなこといわずにさあ。」
「もういいです。私、帰ります!」
「あ、待てよ美汐!もうひとつプレゼントが…」
「そんなもの結構です!さようなら」
駆け出そうとした私を祐一さんの手が引き止めました。
そして…力強く引き寄せられて。
「!!!!!!!!!!!」
「…美汐、誕生日おめでとう」
焼き芋よりも暖かく…甘いプレゼントをいただきました。
END