白線




 チチチ・・・チチチ・・・カチッ

 目覚ましの鳴る音と共に私はスッと起きあがりました。

 時刻は朝の5時30分、まだ日が昇る前です。

 布団から出た私は簡単に身支度を整えて1階の台所に向かいます。

 パタパタとスリッパの音を響かせながら階下に降りていきます。

 いつもと同じはずなのにいつもとは違う音。

 不思議なものです。
















 台所には昨日下ごしらえしておいた料理の数々。

 手早くエプロンをつけると私は準備にかかります。

 唐揚げ、煮物、おにぎり…。卵焼きは2種類です。

 甘くないのはあの人の卵焼き。甘いのはあの娘の卵焼きです。

 2人とも気に入ってくれるでしょうか?

 2人とも優しいからきっと『おいしいよ。』って言ってくれるんでしょうね。

 いつもよりずっと多いお弁当。3人分のお弁当。

 できあがったらちょっぴり嬉しくなりました。

 時刻はそろそろ7時半。私はエプロンを取って部屋へと戻ります。
















 部屋に戻ったらクローゼットとにらめっこ。

 どれにしようか悩みます。

 あの人はいつもおばさんくさいと言うけれど。

 私だって女の子です。たまにはお洒落したっていいでしょう。

 ずいぶん悩んで決めたのは淡い緑のワンピース。

 あの丘の緑のような、そんな感じのワンピース。

 似合っているかは心配ですが…。

 どんな反応をするか楽しみです。













 服を着替えて髪を整えて。

 最後に私はクローゼットの1番下の引き出しを開けました。

 そこにあるのは白いリボン。

 あの子からもらった白いリボン。

 あの子と私の思い出…。

 私はそれを取り出すと、頭にきゅっと結びました。

 あの子のために。そして、私のために。

 私はお弁当をバックに詰めると、忘れないように机の上の包みを手に取りました。

 それはあの娘のためのプレゼント。

 私とお揃いの白いリボン。

 あの娘ならきっと気に入ってくれるでしょう。






















 時刻はすでに9時過ぎです。

 そろそろ出かけなくてはいけません。

 靴を履いて玄関のドアに手をかけて。

 私は何気なく家の中に振り向いて。

「行ってきます。」

 あの子にそっとつぶやきました。

 両手には荷物が2つ。

 あの人のためのお弁当。あの娘のためのプレゼント。

 2人の待つあの場所へ、私はドアを開けて飛び出しました。


『いってらっしゃい。』


 どこかでそんな声が聞こえた気がしました。










 FIN