「ちょ…ちょっと落ち着けよ」
ヴェルテはサチャをなだめようとした。
落ち着けと言って落ち着くような相手でもないが…
「何も、そんなにムキにならなくたって…」
「兄貴が心配だからよ!」
ここまで妹に心配されるのも情けない話だなあ…
溜め息をつきながら肩を落とす。
「じゃあ俺とティールが2人で行けば文句ないだろ?お前連れてくよりずっと安心だし」
うっかり本音が出てしまい、サチャがムッとした顔になる。
「ティールは兄貴が行くのも反対、あたしが行くのも反対。命に関わる事だから一緒には行けないって言ってたもん。だから兄貴がティールと行くって言っても断られるよ」
ドカッと剣を床に突き立て、サチャが続けた。
「だったらさ、ティール1人で行く前に、あたしと兄貴が2人で倒しちゃえばいいよね?」
最もだ。
1人で行くより2人で行く方が勝率は高い。
しかし、だからと言って妹を危険に巻き込むのは気が進まない。
「ティールを縛って倉庫に放り込んでその間に…」
「あのなあ」
言い終わる前にヴェルテが口を挟んだ。
「確かに2人で行けば倒せるかもしれない。でも2人揃って帰って来れなかったら親父とお袋はどう思う?」
「うっ…」と言葉に詰まるサチャ。
一瞬怯んだのを見てヴェルテは続けた。
「特に親父の親バカっぷりを見てみろよ。うちの姫様が〜って姫様扱いするくらいの可愛がりようだぜ?」
「そ、そんなの知らないわよ…父さんが勝手に言ってるだけだもん」
「お前がいなくなったら親父、ショックで倒れるんじゃねーか」
ムスッとして俯くサチャ。
暫く沈黙が続く。
「だから諦めて留守番してろ」と続けようとした時、サチャが先に口を開いた。
「だったら、行かないでよ。兄貴が行かないならあたしも行かない」
そう来るか。
「ティールだってもう一度説得するから…」
「説得ったって、あの石頭に通じるかよ」
「するもん!説得するから、どこにも行かないで!」
言い終わると同時に手に持っていた剣を放り出し、力一杯ヴェルテにしがみついて来た。
「お…おいっ?!」
「あたし、兄貴がいなくなっちゃうの絶対イヤ!」
自分の胸に顔を埋めて泣き喚く妹。
どうして良いかわからず、ヴェルテは困惑したまま立ち尽くすしかなかった。