リテイク 6

恋人だと言って毎晩同じベッドで眠っていても、二人が重ねたのは唇までだった。舌さえほんの少し、まるで小鳥が嘴でつつくようにしか触れ合わせない子供のようなキス。それでもザンザスの心中は穏やかだった。腕に抱いて眠りたいとは思っても、ベッドの上で彼を屈服させたいとは思わなかった。それまで、つまり、スクアーロが記憶を失う前までのザンザスのセックスは愛情よりも、性欲よりも、マウント行動に近いものがあった。痛みに屈しようとしないスクアーロを、四つ足の動物の交尾みたいに腰を掲げさせて体内に押し入り征服するのはとても気持ちが良かった。
抵抗させる間もなく口内に滑り込ませた舌で、頬の粘膜をぐるりと撫でる。当り前だが、今食べたスモモの味がする。甘酸っぱい口の中で縮こまる舌に、ザンザスは己の舌を擦りつけ横腹をゆっくりと舌先で辿った。裏側を擽ってから歯列をなぞる。合わせている下唇を軽く噛む。

「ん、む……っふ…!」

口内でぬるぬると蛇のように這い回る舌に、怯えたように顔を離そうとするスクアーロの後頭部を押さえつけたまま、ザンザスは彼の目を覗き込んだ。どうして良いか分からないように瞬きを繰り返す瞳をじっと見る。互いの睫毛が絡んでしまいそうな至近距離では、焦点など合う筈もないが、彼の目いっぱいにザンザスの深い赤色が映り込む。押さえつける手は外さないが、呼吸をする為に唇と唇の間に少し隙間を開けてやったら、まるでこれから水の中に潜ろうとするかのように大きく息を吸って目を閉じるものだから、思わず笑ってしまった。
折角閉じた目を不審そうに開くスクアーロの目の前でザンザスも目蓋を閉じ、ようやくおずおずと伸ばされた舌を撫でる。ちゅ、と音をたてて吸うと押さえていた頭がびくっと震えて、ザンザスの指先は宥めるように長い髪を梳く。スモモを摘まんでいる方の手は、新しく溢れた果汁でべたべたになってしまっていたが、構わない。

髪を梳いた指先は勿体ぶるようにゆっくりゆっくりとスクアーロの首筋に降り、顎の下を撫でた。口の中の舌が引き攣る。それと同時に、身を乗り出す為に机に付いていた両腕も崩れ落ちてしまいそうになる。スクアーロが体勢を崩す前にザンザスは唇を離して、口の端から溢れた唾液を舐めて拭った。半分ほどしか食べていないスモモを、染みになるのも構わずに書きかけの書類の端に置いて椅子から立ち上がる。スクアーロは今にも机の上に倒れ込みそうに、肩で息をしていた。

「セ…ックス、するのか…?」
「嫌か?」
「嫌じゃないけど、…」
「痛くはしねぇ。嫌だって言ったら止める」
「俺、上手くできるか…」
「今日は何もしなくて良い。服脱いで寝てたら気持ち良くしてやる」

髪の毛を鼻先で掻き分けて、耳の穴に吹き込むように囁かれると必死で保っていた腕の力が抜けて、ついでに膝まで震えて、スクアーロはへなへなと机に沿って座り込みそうになる。机の上に落ちそうだった上半身を、ザンザスが胸の前に腕を回して支えてくれた。そしてそのまま、寝室までだって歩けるかどうか分からない体を肩に抱えられてベッドに運ばれる。毎晩眠っていたベッドのシーツが、まるで別物みたいに肌を擽った。天蓋の暗がりの中で自分に覆い被さるザンザスの体が、大きな黒い影になった。影の中で爛々と光る赤い炎が、夕焼けの炎が世界を焼き尽くすように自分の肌を焼く。背中に敷いてしまった髪を、ザンザスが背の後ろに手を入れて少し体を浮かせて引き出してくれた。
どうも、この長い髪には慣れない。ベッドや椅子の背に敷いてしまったり、シャツを着て襟から引っ張り出すのを忘れたりする。まだシャツ越しなのに背に当てられた手が熱くて、スクアーロは火傷するんじゃないかと思った。ずっと触られていたら、氷でなくとも溶けてしまいそうな手。ベルトのバックルを外されて、ボトムスの中からシャツの裾を引っ張り出される。耳朶を、まるで味わうかのように丹念に舐められながらシャツのボタンが外されていく。

「ん…っんぅ、はぁ…っ」

耳の中で唾液を混ぜる音がして、スクアーロは首を竦める。焼かれていく肌が熱くて、開いたシャツの前に触れる空気が冷たく感じるほどだ。ベッドに体を投げ出して見上げるだけでは良くないんじゃないかと、ザンザスに向かって手を伸ばすが、力の抜けた両腕は彼に届く前に落ちる。
シーツに落ちた右手をそっと親指で撫でて、ザンザスはチャックを下ろしたボトムスから、スクアーロの足を抜く。靴と靴下も脱がせてしまって、下着も腿の半ばまで下ろした。感覚では分かっていたが、反り返った自分の性器が視界に入って、しかもそれをザンザスの前に晒している恥ずかしさで、スクアーロはぎゅっと目を瞑る。ザンザスはそれを咎めずに、まるで先程のスモモの果汁のように、先端を先走りで濡らした幹を手で包んで、ぬめる体液を全体に塗り込めてやる。

「あ…っぁ、や…っひ…!や、やぁ!ザンザス、やめ…!」

 蜜に濡れ光る茎をぱくんと咥えられてスクアーロが仰け反った。悲鳴のように声をあげてきつく閉じていた目蓋を開くと、自分の足の間に艶々としたザンザスの黒髪があった。信じられない、とばかりにスクアーロはシーツの上で藻掻く。離れさせようとザンザスの頭を押すけれど、熱く濡れた口内に腰が戦慄いて力が入らない。先端を頬の内側で擦られて、裏筋を舌で辿られる。太腿の後ろがぴくぴくと引き攣れて、頭の中がぼうっと白くなる。ザンザスに頭に置いた手は離させようと押すよりも、快楽の波に攫われそうで縋っているかのように短い髪を掴んだ。
「嫌か?嫌なら止めるぞ」
「やぁあ…ッしゃべらな、ァ、ン、うう…!!」

止める、と言いながらも、深くまで飲み込むように咥えて吸われ、堪え切れなくなってスクアーロは吐精する。青臭い、濃い精液がザンザスの口の中に撒かれた。厚い唇は、咥えた性器が最後の一滴を吐き出すまで、それを挟んだままやわやわと扱いてやっていた。

「…止めるか?」

口内で吐き出された精液を飲み込んでザンザスが問う。やはりスモモの果汁とは違う。甘くないし喉の粘膜にへばり付くし、飲めたものではない。そんなことが分からないで飲んだ訳ではないけれど。

久しぶりの射精に、それだけでくったりと四肢をベッドに沈めてしまったスクアーロは、顔を隠していた腕をずらして、濡れた目でザンザスを見た。まだどこか呆然としているような、熱に浮かされて焦点が合っていないような目だ。整えられない呼吸に胸は大きく上下して、唇は甘く開いたまま。けれど顔を隠す腕の下で、彼は小さくかぶりを振る。

「…止めない」
「痛くはしねぇって言ったが、この先は痛いこともあるぞ」
「うん。大丈夫」
「そうか、…足開け」

 着ていたシャツが汗で張り付くようになって、ザンザスはシャツを脱ぐ。まだ一度出させただけ。殆ど何もしていないのと同じなのに、ザンザスは汗を掻いていた。耳の後ろで自分の脈がどくどくいっているのが聞こえるくらいだ。脱ぎ捨てたシャツを床に落として、ベッドサイドのチェストからハンドクリームを取り出す。ローションなんてここには無い。スクアーロとのセックスで、そんなものを使ってやったことが無いからだ。
商売女は自分の体をそんな物が必要無い所まで慣らしているか、馴染みの道具があるから、やっぱりザンザスの寝室にローションは必要無かった。同じ理由でコンドームも無い。中に出されると、すぐに洗い流せる時ならまだしも、気絶して翌朝までそのままだと酷い事になるから、と訴えられたこともあったが、ザンザスは聞く耳を持たなかった。勿論気絶しようが失神しようが、後処理なんてしてやる筈もない。それどころか、気絶したスクアーロが邪魔になってベッドから蹴り落とした事もある。

 ハンドクリームの蓋を開けて、中身を掌に絞る。両手を合わせて人肌の温度に温めたクリームを人差し指に掬って、先程の先走りや伝い落ちた唾液で濡れてはいるものの、固く締まった後ろの窄まりへ塗る。まだ指を挿れずに今度は親指でクリームを塗り込め、周囲の花びらを解すように揉んでやる。

「ん、っ……」

ゆっくりと窄まりを解されているスクアーロは、いよいよどうして良いか分からない。ここからではザンザスに何かすることは出来ないし、一度吐き出したことで、あの、頭の中が真っ白で何も考えられなくなって、恥ずかしいのか気持ち良いのかさえ分からないような状態は脱してしまった。尻を揉まれてすぐに善がる程淫蕩ではないが、けれど同じ下肢だ。ごく近い場所を丁寧に弄られて、時々ハンドクリームでぬめった指先が掠めて、腰が跳ねてしまうのは押さえられない。
やがて揉み解された窄まりに、指が一本潜り込んでくる。銃を扱う指の節が窄まりを押し広げて、中の粘膜に触れる。ハンドクリームで滑りを良くした指は、一本程度ならさほど難しくない。けれど、指がぐるりと中を掻き交ぜ、検分でもするように内壁を擦ると、体の内側を触れられる不快感にスクアーロは眉を顰めた。

「っ…う…」

一本目が問題無く入ると、次は二本目。一旦人差し指を浅くまで引き抜いておいて、中指を挿れる。入口で指を揃えて先程と同じように粘膜を広げていくが、一本だった時とは違う質量と異物感に、いくらハンドクリームで滑りを良くしておいてもスムーズに進まなくなる。窄まりは含まされた二本の指をきゅうと締め付け、粘膜は、それが元々の働きであるように異物を排出してしまおうと蠢くのだ。

「あ…っは……!」

排出したいものをそのまま体内に留められて、息が詰まる。二本の指に体内を掻き回されるのは、一本の比ではなく首筋がぞわぞわする。こんな場所にザンザスのものを挿れることができるのだろうか。同じ体で出来ていたのだから、出来ない筈はないだろうが、今は不可能に思える。

「スクアーロ、力を抜け。スクアーロ、…」
「ひッ…!?嫌だ、ザンザスそれ…!」
「こうした方が楽だろうが。別に我慢大会やってる訳じゃねぇんだぞ」
「でも、っ…んー…!」

言い聞かせても体を強張らせているスクアーロを見て、ザンザスは、先程そうしたように性器を咥えて先端を舐めた。直腸を直に触れられる感触に竦んで項垂れた茎をあやすように、ちろちろと括れを擽ってやる。快感に騙された粘膜が緩むと、すかさず指を進めて奥を探る。記憶が無いとはいえ、同じ体だ。器官の位置が違う筈はない。






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